『詩集 見えない涙』 若松英輔 著
亜紀書房 1,800円+税 装釘 名久井直子
みなさんはどんな時に詩集を手にするでしょうか。『見えない涙』の著者・若松英輔さんはご自身が厄年を迎えるまで、本当の意味で詩に触れていなかったと、あとがきに書いています。
詩は黙読するより、朗読を聴くのが好きな私は、やはり自分で読む時も声に出します。おそらく、そうするたびに新しい感情と新しいことばに出会うからかもしれません。
とても美しい、愛らしい、嬉しい、あるいは、すごく淋しい、哀しい、恐ろしいというような感情は、日々の暮らしの中で度々沸き起こってくるのですが、いざ、その気持ちを人に伝えようとすると、ことばにならないもどかしさを感じることがあります。
目前で大きな感銘を受ける出来事が起きたとして、一方で、自分のことばがつたなすぎて言語化できず、心拍数だけが、ただただ上がり気味という始末。そんな感情だけが体のどこかに宿っていて、たまたま開い頁の詩の一行に、そのすべてが表れていると、はっとして、ことばと気持ちの整理がつきます。
人が
何かを語るのは
伝えたいことがあるからではなく
伝えきれないことがあるからだ
言葉とは
言葉たり得ないものの
顕(あら)われなのである
だからこそ
語り得ないことで
満たされたときに
人は
言葉との関係を
もっとも
深める
(「風の電話」から一部抜粋)
「燈火」「記念日」「薬草」「詩人」「読めない本」「仕事」「見えないこよみ」「青い花」ほか全26編が収められた若松さん初の詩集は、まるで私たちに贈る魂の声のように響いてきます。一粒一粒のことばに、人が涙する時の輝きと曇りを秘めて……。
詩の清楚な空気感と息を合わせたような装釘は、名久井直子さんによるものです。(上野)