『暮しの手帖』は、創刊時から自社以外の広告を掲載せずに発行して来ました。本誌の全頁を花森安治の美学で貫くため、また商品テストを厳正に行うためと、折りに触れて編集後記等で説明しています。
『とと姉ちゃん』のドラマでは、資金に窮した常子が、花山に無断で5号の裏表紙に料理学校の広告を入れてしまい、花山と袂を分かつ原因になってしまいます。
実は、『暮しの手帖』もたった一度だけ、裏表紙に広告を掲載したことがあるのです。1世紀3号の初刷のみに、資生堂の化粧品の広告が掲載されています。黄色の枠の中に、薄赤色のドレスを着て白手袋をした上品な女性の絵とともに、ゾートス化粧品と商品名が表記されています。
『出版研究』39号(2008年)に掲載された雪野まり氏の論文には、前社長の横山泰子が大橋鎭子から聞いた話として、資生堂宣伝部のデザイナーであった山名文夫氏が持ち込み、こちらが未払いであった図案集や講演会などの稿料・講演料などの代わりに無償で掲載したものと書かれています。しかし、この図版は、資生堂の広告のデータベースや社史にはなく、資生堂からの提案というのは多少の疑問が残ります。
同時期(1948~49年)の他誌に掲載されたゾートス化粧品の広告よりも、大きく、洗練されたものであったようで、山名氏個人が自らのデザインした理想的な広告を花森に持ちかけたのでしょうか。花森も3号にこの広告ならマッチすると考えたのでしょうか。
この広告がどういう経緯で掲載されたのか、花森も大橋も亡くなった今となっては、詳しく知る者はおりません。(高野)
『暮しの手帖』のたったひとつの広告について
2016年08月02日