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自分たちで、作って食べる

2024年03月27日

自分たちで、作って食べる
(29号「檀太郎さんと檀晴子さん 二人の台所から」)

ともにエッセイストとして活躍する、檀太郎さんと檀晴子さん。お二人は15年ほど前に住み慣れた東京を離れ、福岡市の離島、能古島(のこのしま)で暮らしています。食の分野に造詣の深いお二人。島ではどんなふうに過ごし、日々、どんな料理を作っていらっしゃるのか。暮らしはどんなふうに変わったのか……お話を伺いたくて、昨年末に能古島を訪ねました。
着いて早々、案内してくださったのは、ご自宅のすぐそばにある、それぞれの畑。そこには、ブロッコリーやカリフラワー、大根やねぎ、香菜などなど、20種類以上の野菜が栽培されていて、食べ頃のものを手際よく収穫していきます。
「でも、私は育てるのが下手で、何年経ってもまだまだ下手で。葉物野菜は虫食いで穴だらけだし」と晴子さん。「でも、おいしいの」と微笑む様子に、自分たちの手を動かして作る喜びを垣間見た気がしました。
誌面では、能古島に移住してからよく食卓にのぼるようになったという「エビの中華ふう炒め」と「かつお菜のパスタ」の作り方もご紹介しています。食に深い愛情を持つお二人だからこそ生まれた、工夫に富んだレシピをお楽しみください。(担当:井田)

お店の味を再現できます

2024年03月26日

お店の味を再現できます
(29号「ふーみんさんの元気の素」)

「ふーみん」の愛称で親しまれ、多くのファンを持つ料理人・斉風瑞(さい・ふうみ)さん。東京・青山の「中華風家庭料理 ふーみん」を25歳で開き、70歳まで厨房で中華鍋をふるっていました。78歳となる現在も変わらずとても元気。1日1組限定で、予約制の小さなレストラン「斉」を営んでいます。

ふーみんさんは、ご両親は台湾人ですが、生まれも育ちも東京です。お母様から受け継いだ台湾の家庭料理をアレンジして提供していく中で、お客様とのやりとりから新しい料理が生まれていきました。
今でも「ふーみん」の人気メニューである「ねぎワンタン」や「納豆チャーハン」も、そうして生まれたもの。これらのメニューも、「斉」で客層や調理場の変化に伴って進化し続けています。

今回ご紹介するのは、ふーみんさんが様々な料理のベースとして使っている「肉ダシ」。これを使った「しょう油らーめん」は、スープを飲み干したくなる滋味深いおいしさです。「ふーみん」の隠れ人気メニューという「豆腐そば」は、にんにくがゴロゴロ。ねぎ、しょうがも入って、滋養がつきそうな一品です。そして、肉ダシをとった後のひき肉を無駄なく活用した「肉みそ」は、ご飯のお供に最適で、編集部で試作した時も大好評でした。お店で人気の「たらこ豆腐」、「ねぎワンタン」も家庭で再現できますよ。
調味料は至ってシンプルでも、少しの手間を惜しまないことで、しっかりとしたおいしさに仕上がります。自宅でもこんなにおいしく作れるんだ、と驚くこと間違いありません。(担当:小林)

普通の暮らしのありがたさ

2024年03月25日

自分の持ち場でできること
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
つい先日、閉店間際のスーパーでせわしく買い物をしていると、大ぶりの筍が目に入りました。一本980円也。まだちょっと高い気がするけれど、筍ご飯が浮かび、手が伸びていました。
昨年の23号の記事「春を楽しむ和のおかず」にならい、筍をゆでたら、すぐさま一番ダシの煮汁で煮る下ごしらえを。その煮汁で炊きこむ筍ご飯は、香りがよく、まさに春の味がしました。
年齢を重ねるにつれて、食材の旬をとらえて味わうことが、しみじみと嬉しく、ありがたく思います。皆さまは、どんな春の日々をお過ごしですか?

今号の表紙画は、香川在住の画家・山口一郎さんによる「march of colors」。生きる喜びがみなぎるようなこの絵、じつは、ある有名な曲の歌詞をマスキングテープに書き、コラージュしてつくられています。
どんな曲か、そしてそこに込められた山口さんのメッセージは? ぜひ、169頁をお読みください。

前号の「最新号発売のご挨拶」で、石川県珠洲市で被災した体験を綴ったところ、思いがけず多くの方々から温かいメッセージをお寄せいただきました。ありがとうございます。
わずか数日の出来事でしたが、帰京してしばらくは、蛇口から湯水が出ることや、トイレが普通に流せることに、安堵とありがたみを感じたものです。
そして、この号で取材をした、ある記事の言葉がたびたび胸に浮かびました。巻頭記事の「わたしの手帖」で、作家でジャーナリストの内田洋子さんが語ってくださった、こんな言葉です。

まずは自分を大切にする。
心と身体が元気なら、
側にいる弱い人から助けていこう。
その範囲を徐々に広げていければ
社会が良くなっていくのではないか。

被災された方々に思いを寄せて、自分なりにできることはないかと考える。あるいは、少し飛躍するようですが、ウクライナやガザで犠牲になっている弱い立場の人びとのことを思い、この悲惨な戦いをなんとか終えられないものかと考える。皆さまの中には、おそらくそんな方が多いのではないかと想像します。
自分の暮らしをいつくしみ、大事に思うからこそ、他者の暮らしが損なわれたときの痛みも鋭く感じられる。同時に、「たった一人の自分に何ができるのか」と、無力感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。SNSの投稿などを読んでいるとそう感じますし、じつは私も同じです。
だからこそ、内田さんの言葉にはハッとさせられ、胸に小さな灯りがともった気がしました。私は私の立場から、「自分の持ち場でできること」を考え、諦めずにやり続けていこうと。
内田さんは、長年イタリアで暮らしながら、現地のニュースを日本に伝える通信社を一人で営んでこられた方です。階級が根づいているヨーロッパ社会で、異邦人だからこそ入り込んで目にできたこと。街角のバールで隣り合わせになった人びとに気楽に話しかけ、裏社会の話題から若者の最新事情までをキャッチする取材力。いわば人間力がたくましく、人間観察にすぐれた内田さんの言葉は、強くて明晰で、どこか温かいのです。

日本ではコロナ下で「自助、共助、公助」という言葉が唱えられ、「その順序は違うのでは? まずは公助ではないか」という批判が集まりました。私もそう思います。
ただ、「自助」や「共助」が不要かと言えば、もちろんそんなことはなく、自分の足で立って暮らしを営む力や、まわりの人に手を差し伸べて助けることは、やはり大切でしょう。
本当の意味での個人主義とは何か。世界でさまざまな弱者が生まれるいま、私たちはどう生きていけばよいか。ぜひ、内田さんの言葉に耳を傾けてみてください。
この記事のタイトルは「どんな色にも意味がある」。色とは、私たち一人一人の、決して一つではなく優劣のつけられない「生き様」そのものなのです。

さて、最後に一つ、お願いがあります。
26号の「コロナ下の暮らしの記録」に続き、来年34号の掲載をめざして「災害時の暮らしの記録」の投稿を募ることにしました。地震や水害などの自然災害により、避難所や在宅避難で暮らしを送ったご経験をお持ちの方に投稿をお願いしています。
平時の暮らしでは見えてこないこと、ご経験から得た知恵や教訓を、誌面でお伝えできたら幸いです。詳しくは、下記をご覧ください。

https://www.kurashi-no-techo.co.jp/blog/information/20240325

そのほか10本の特集記事は、明日より一つずつ、担当者がご紹介しますね。
寒の戻りのためか、桜の開花予想は少し外れたようですが、春はもうすぐそこに。身体をいたわりながら、どうかゆったりとお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

特集「災害時の暮らしの記録」投稿を募ります。

2024年03月25日

いつも『暮しの手帖』をご愛読いただき、まことにありがとうございます。

編集部では現在、来年1月25日刊行予定の34号にて、「災害時の暮らしの記録(仮題)」という特集の準備を進めております。
今年の元日に起こった能登半島地震では、多くの尊い命が失われ、いまも避難生活を余儀なくされるなど、甚大な被害を受けた方々が数多くいらっしゃいます。震災に限らず、近年は各地で水害もたびたび起こっており、そうした自然災害によって、「慣れ親しんだ暮らしを変えざるを得なくなった」体験をされた方は、決して少なくないことと思います。

このたびは、そうした被災の体験をお持ちの方に、ご自身の体験記と、その体験をもとに、現在の暮らしで備えているものなどについて綴っていただきたく考えております。自然災害は、平時は「現実に起こり得ること」「自分ごと」として捉えて備えることが、なかなか難しいものでもあります。あなたが実際の体験で得た知恵や教訓を、『暮しの手帖』の誌面でお伝えいただけないでしょうか。

詳しくは以下の募集要項をお読みいただき、暮しの手帖社まで原稿をお寄せください。
募集の締め切りは、6月30日(日)まで。
皆さまからのご応募を、心よりお待ちしております。

募集要項
●内容と掲載について
・あなたが自然災害で被災した際に体験したこと、避難所や在宅避難で送った暮らしについてお書きください。「これが実際に役立った」「後から、これを備えておけばよかったと考えた」「その時の体験をもとに、現在の暮らしでこれを備えている」といった物事についても、できるだけ詳しくお書きください。

・自然災害の名称と、起こった年をご明記ください。(例:能登半島地震 2024年)

・応募は未発表原稿に限ります。

・掲載は匿名も可能です。匿名希望の方はお書き添えください。

・採用された方には、電話またはメールにて改めてご連絡を差し上げ、詳しくお話を聞かせていただくことがあります。掲載にあたって、一部加筆・修正させていただく場合があります。

●字数
1000字程度(400字詰原稿用紙2〜3枚)を目安にお書きください。

●応募
以下のURLから、または郵便にてお送りください。

【応募フォーム】
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSejblBfjfz3REZU5TnmKh-3usMsenOYZC39tcH0-_3567gc7Q/viewform

【郵送先】
〒101-0047 東京都千代田区内神田1-13-1-3F
暮しの手帖社「災害時の暮らしの記録」係
※郵送の場合は、お手紙に必要事項をご明記ください。

●必要事項
お名前(本名)、ふりがな、ご住所、電話番号、メールアドレス、ご職業、ご年齢 

●募集締め切り
2024年6月30日(日)まで。郵送の場合は当日消印有効。

●謝礼
採用された方には、薄謝および掲載誌一冊を差し上げます。

●注意事項
・掲載原稿の出版権(ウェブなどの電子媒体も含む)は、暮しの手帖社に帰属します。
・お送りいただいた原稿の返却はいたしません。
・個人情報は厳重に管理し、本企画以外の目的に利用することはありません。

●お問い合わせ
暮しの手帖「災害時の暮らしの記録」係
saigai@kurashi-no-techo.co.jp

原稿の到着、および採用に関するお問い合わせはご遠慮ください。
上記のメールアドレスからはご投稿いただけません。

花の個性ってなんだろう

2024年03月16日

取材終わりに、フリージアの花をいただいて帰ったことがありました。手のひらにも満たない小さな黄色い花が、殺風景な仕事机をぱっと明るくしてくれたことをよく覚えています。みずみずしい香りがして、柔らかい茎やつぼみもかわいらしく、そして何より、思ったよりもずっと長い間、咲き続けてくれたのです。調べてみると、フリージアは他の球根系の花と比べて長持ちしやすい品種でした。

花の個性はさまざまです。見た目の違いはもちろんのこと、「低温に強い」「茎が腐りにくい」といった扱いやすさの違いや、香りの強弱、枝が曲げやすいかどうかなど、飾るときに知っておくと便利な特徴もあります。
新刊『花と暮らし』では、そんな花の豊かな個性を知り、より美しくいけたり、より長持ちさせたりするための工夫を取材しました。

その一部をご紹介します。
●「花を美しくいけるための5つの基本」(22~31頁)
いけばな草月流で教える基本の「型」から、花や花器のバランスのとり方、花材の扱い方を学びます。

●「いただいた花束をいける」(32~41頁)
基本の型を踏まえつつ、生活空間に合わせたアレンジに挑戦します。今回は、花束を一つ用意して、そこから花を選んで組み合わせ、家中のさまざまな場所にいけました。

●「切り花を長持ちさせる方法」(42~49頁)
切り花がしおれるメカニズムを学び、基本のケアをご紹介します。

どの記事も、この春はもちろん、これから先もずっと役に立つ情報を選りすぐって掲載しています。気になったものから、じっくり試してみてください。自分の暮らしに合った花や飾り方が見つかるかもしれません。(担当:山崎)

本の概要はこちらからご覧いただけます。

花と向き合う楽しみ

2024年03月15日

「押し花を始めると、身の回りのいろいろな花に興味が湧きます。四季ごとに変わる花々に触れていると、季節を追うのが楽しみになる。それは、言い換えれば生きるのが楽しみになることでもあるのです。」

取材のとき、そんなふうに話してくださった押し花作家の杉野宣雄さん。この言葉を聞いて、子どもの頃大好きだった「草花あそび」を思い出しました。シロツメクサで冠を編んだり、オオバコで相撲遊びをしたり。花を飾る楽しみを知った今より、当時の方が、花はより身近な存在だったように思います。そう感じるのは、かつての私が花一本一本と向き合えていたからかもしれません。

新刊『花と暮らし』では、押し花やボタニカルアートなどの手法を通して、花との向き合い方と、その楽しみをご紹介しています。見慣れたはずのパンジーも、じっくり向き合い、押してみると、これまで見過ごしていた形や色の美しさに気づきます。その発見と感動は、暮らしに彩りを与えてくれるのではないでしょうか。

さらに、今号では「花より団子」という方のために、お花見弁当のレシピもご紹介しています。藤井恵先生のアイデア満載の、お弁当三種の提案です。

今春は童心に返って、花とじっくり向き合う時間を持ってみませんか。この一冊が、そのお役に立てればうれしいです。(担当:須藤)

本の概要はこちらからご覧いただけます。

別冊『花と暮らし』発売です

2024年03月14日

別冊『花と暮らし』発売です。
――別冊編集長より、新刊発売のご挨拶

自宅に花を飾るというのが、実は少し苦手でした。花はとても魅力的で部屋の中を明るくしてくれます。ただ、それだけに照れてしまうというか、「飾る」という特別感に気後れしてしまうというか……。そこで、少しだけ視点を変えてみました。
春になると、桜は空を染め、菜の花は畑を覆い、新緑は山を笑顔にします。その美しさを作っているのは一輪の花や、一枚の葉なのです。しかも色も形も微妙に違っていて、一つとして同じものはありません。花の色や形、葉の付き方、茎の曲がり具合……。それらを丁寧に見ていると、愛おしさが生まれてきます。いかに美しく花を飾るかも大切ですが、一本の花や一枚の葉と向き合う時間こそが、「暮らしに花を飾る」ことなのではないではないか、と考えたのです。

この本で紹介している、押し花やいけばな、ボタニカルアートなどは、じっくりと花を観察し、一本一本の特徴を把握することが大切です。もちろん美しい作品のためには技術や経験が必要ですが、真剣に花と向き合うことは誰にでも可能です。そして、花と向き合った時間は、暮らしの中で、とても貴重だと思います。
「人がいて、花をいけたいという思いがあって、手元に数本の花があれば、その花をいけることで表現が生まれます。いけばなは遠い存在ではなく、暮らしのすぐ近くにあるものなのです」
草月流第四代家元・勅使川原茜さんは、いけばなについてそう言います。

そしてもう一つ、茜さんは大切なことを教えてくれました。
「花をいけるとは『相手を思う』ことなのです。(略)素直な気持ちで、相手を思いながらいければ、どこに、どんなふうにいけてもいいのです」
家元のインタビューのため、私たちが伺った部屋のテーブルには、取材陣のために茜さんがいけた花が飾られていました。暮らしに花をいけるという取材の趣旨に合わせて、誰もが持っているようなワイングラスに、なじみ深いチューリップやスイートピーなどの花。それに茜さんが好きな真っ赤なグロリオーサ……。
まさに茜さんの言葉を表すような花でした。

別冊編集長 古庄修

本の概要はこちらからご覧いただけます。

春。山菜の季節ですね。

2024年03月01日

先週の晴れた日に、東京郊外を自転車で走っていたら、あちこちの家の庭先にミモザの黄色が。目に眩しく春を感じました。そして河原の空き地や畑の脇などには、菜の花の黄色が広がっています。菜の花の香りも漂って、いっそう春らしさを感じた日でした。そのあと見たスーパーの野菜売り場では、菜の花や春豆が並んでいました。もうすぐ3月には、筍やうど、ふきなど、山菜の出盛りになりますね。

いま、新刊単行本の『有元葉子 春夏秋冬うちの味』が大好評発売中です。
この本では、四季折々の旬の食材を生かしたシンプルな料理を掲載しています。著者の有元葉子さんが、実際に日ごろから作っている料理の数々です。ふきは、ふきと油揚げの炒め煮、ふきの葉のふりかけ、ふきみそ、生うどのふきみそ添えなどをご紹介しています。葉つきのものを買って、葉っぱを炒めてふりかけを作るのが有元家のお決まりだそう。うどは、生うどのほか、うどの皮のきんぴらもご紹介しています。葉っぱや皮も余すことなく味わって、春の山菜ならではの香りや食感を楽しみます。そしてこの時季に欠かせないのが、筍ですね。

米ぬかと一緒に下ゆでしておけば、ある程度日持ちしますから、定番の若竹煮をはじめ、さまざまな料理を作って楽しむことができます。この本では、ゆで方はもちろん、若竹煮のほかに筍と真鯛の揚げものをご紹介。揚げものは、うす衣でカリっと香ばしく、これまた旬の桜鯛と一緒に揚げて、木の芽を散らします。
わかめと筍で作る若竹煮もそうですが、旬の食材には「出合いもの」といって、同じ季節の海のもの、山のものなどを合わせていただく、昔からの楽しみ方があります。この組み合わせがまたおいしいのです。香りや食感の相乗効果の妙。それは自然の理にかなったおいしさです。

季節を問わず多くの食材が手に入る便利な世の中ですが、「その季節だけのおいしさ」というものを、心待ちにしていただく。そんな料理のおいしさと食卓の楽しみは格別です。この本は、春夏秋冬のそうした料理の数々を、有元さんの暮らしのなかからご紹介していただいた一冊なのです。
この本の中から少しずつでも、料理と食卓の楽しみを暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。(担当:宇津木、写真:馬場晶子)

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使い込まれた漆器のように

2024年02月09日

使い込まれた漆器のように
(28号「小さな家を建てるなら」)

こんにちは、編集長の北川です。
かれこれ15年ほど前、前職の時代に訪れた家が、ずっと忘れられずにいました。東京・国立市の住宅地の一画、24坪弱の敷地に建つ、こぢんまりとした家です。
なるたけ余分なスペースをとらないように、いわゆる「玄関土間」はなし。天井の低い短い廊下を歩き、階段を上がると、思わず「わあ」と歓声がもれました。明るくて伸びやかなリビング・ダイニングの空間が、ぱーっと広がっていたのです。これはたぶん、狭い空間から上がっていったから、余計に広々として感じられたのでしょう。
そんなメリハリの利かせ方のほかにも、この家には、「居心地のよさ」をもたらす工夫があちこちに。15年ぶりに再訪し、住み手であり設計者でもある田中敏溥(としひろ)さんに、詳しくお話を伺いました。

田中さんいわく、施主のほうに必要なのは「暮らしの哲学」だと言います。というとカタく思えるかもしれませんが、要するに、「自分たちはどう暮らしていきたいか」という強い思いと実践があれば、「限られたスペースやお金の割り振り方」といったことも自ずと見えてくるのでしょう。
今号には「漆器を使ってみませんか?」という特集記事があるのですが、住まいは暮らしにとって「大きな器」のようなもの。使い込まれた漆器が深みのある艶をまとうのと同じく、30年という家族の営みが刻まれた住まいは、本当に「よい歳の重ね方」をしています。

ちなみに田中さんは東京藝術大学の建築学科卒で、恩師の一人に、住宅建築の名手として知られる吉村順三さんがいます。現在、東京・東陽町の「ギャラリーエークワッド」では、「建築家・吉村順三の眼(まなざし) アメリカと日本」を開催中です。住宅にご興味のある方、必見ですよ。(担当:北川)

◎展覧会「建築家・吉村順三の眼(まなざし) アメリカと日本」

ハンセン病療養所で歌う思いは

2024年02月08日

ハンセン病療養所で歌う思いは
(28号「そこにはいつも歌があった」)

みなさんは、ハンセン病について、どれほどご存じでしょうか。
私は10年くらい前、ひょんなことから沖縄は名護にある療養所「愛楽園」の資料館を訪ねるまで、ほとんどなんの知識も持ち合わせていませんでした。知っていたのは、「かつて大変に差別された伝染病だな」というくらい。
特効薬ができるまで、患者の方がどれほど苦しんだか。戦後に「治る病気」と判明してからも、どれだけ苛烈な差別に晒されたのか。正直に言えば、今回、この特集を編むまで、きちんとは理解できていなかったでしょう。
沢知恵(ともえ)さんは、そのハンセン病の療養所に、幼いころから通い続けている人です。最初は見舞い客として。長じて歌手になってからは、園内でコンサートを行ない、また、岡山大学の大学院で、かつて園内で歌われた「園歌」の研究も行なってきました。
沢さんは、「入所者を『単なるかわいそうな被害者』として語りたくない」と言います。彼らが負った影の部分だけでなく、その人生において経験した光の部分も語り継ぎたいと。
この特集では、沢さんの、静かながら熱い思いを伺うとともに、昨秋、岡山県にある療養所・長島愛生園で行われたコンサートの様子もお伝えしています。沢さんの歌は、CDやサブスクリプションで聴くことができます。ぜひ、『消印のない手紙』や『愛生園挽歌』などの療養所にまつわる歌に耳を傾けながら、記事を読んでいただけたらと思います。(担当:島崎)

旬の野菜をたっぷりと。

2024年02月07日

旬の野菜をたっぷりと。
(28号「有元葉子 冬の葉野菜で作る、とっておきの2品」)

冬の寒さに備えて甘味を増し、1年で最もおいしくなる冬の葉野菜。青々と深い緑の葉がこんもりとしたほうれん草、まるまると大きく葉の巻きが詰まった白菜。年間を通しておなじみの野菜ですが、夏とは段違いの味わいです。
このページでは、新刊『有元葉子 春夏秋冬うちの味』から、ほうれん草と白菜をたっぷり使った2つの料理をご紹介しています。この本は、近年うすれつつある「食の旬」を真ん中に据えて、季節ごとの食材のおいしさを生かした料理を提案しています。また「ちゃんと食べる」ということの大切さ、暮らしの根っこを支える「食」の大切さなど、有元さんならではのエッセイも充実した一冊です。
今回掲載しているのは、「ほうれん草と豚肉のスパゲティ」と「白菜鍋」。どちらの料理も、旬の野菜の魅力を生かした、シンプルな2品。今夜の食卓にすぐに役立つレシピです。(担当:宇津木)

ラジオとわたしの特別な関係

2024年02月06日

ラジオとわたしの特別な関係
(28号「ラジオは友だち」)

家にいる時間が増えたこの数年、ラジオを聞く人が増えた、という話を耳にしました。
私もその一人で、ある日、本当に久しぶりにラジオアプリで聞いてみると、たわいもないおしゃべりなのに、妙に落ち着く。常にラジオがついている家で育ったこともあり、そういえばラジオ、好きだったなあと思い出しました。

アプリなどを使って、自分の聞きたい時間に聞きたい番組を聞けるようになった、昨今のラジオライフ。ラジオがお好きな方々に、ラジオとの出合いや思い出を語っていただいたのが、こちらの企画です。

ご登場いただいたのは、ジョン・カビラさん、黒沢かずこさん、いとうせいこうさん、桂二葉さん、後藤繁榮さん、瀧波ユカリさん、秀島史香さん、山口晃さん、そして佐藤雅彦さんの9名。

取材を通して感じたのは、ラジオの向こうには、まぎれもなく人がいる、ということです。どなたもラジオから伝わる人柄や声、音楽に魅せられていて、だからそれについて語るときも自然と生き生きとしたり、懐かしんだり。

思い出のほか、「今おすすめの番組」についても伺っています。
ご無沙汰という方も、久しぶりに聞いてみませんか。(担当:佐々木)


暮しの手帖社 今日の編集部