1. ホーム
  2. > Blog手帖通信

旬の素材に助けてもらう――神田裕行さんに教わったこと

2017年06月02日

かんだIMG_9040_0217

金曜日の夕方って、なにか気持ちがゆったりと、大きくなります。
(この1週間も、なんとかのりきった! 積み残したあれやこれやは、まぁ、週末にくつろいだ頭で考えればいいじゃない!)すると、むくむくと食欲が湧いてきて、なにを作ろうかとわくわく。(逆に元気がないときは、なんでもいいや……となってしまうから、食事への興味は、元気のバロメーターですよね)

「料理を作るとき、最初に意識するのは旬の食材です。
旬のものを使えば、特別なことをしなくても素材のおいしさに助けられます」
というのは、ミシュラン三つ星を10年連続で獲得する料理人、神田裕行さんの言葉です。
“――特別なことをしなくても”
料理に自信がないわたしにとって、これはとてもうれしい秘訣でした。
今夜は、旬の「竹の子」と「そら豆」に助けてもらうことにします。

写真は、単行本『神田裕行のおそうざい十二カ月』のために試作した「竹の子とそら豆の炊き込みご飯」。旬の食材の存在感を大切にするために、あえて細かく刻んだ油揚げが、ダシのうま味をたっぷり吸って、隠し味になっています。
(担当:長谷川)

単行本『神田裕行のおそうざい十二カ月』の目次は下記のリンクよりご覧いただけます。

神田裕行のおそうざい十二カ月

行かないでいいよ!(88号「不登校だって大丈夫」)

2017年06月02日

不登校DSC_0113

とつぜんですが、皆さんは子どもの頃、学校はお好きでしたか。私は正直、とても苦痛でした。
ルールがたくさんあること。時間割をはじめ、なにもかもが決められていること。怖い先生がいること。点数を競わされること……。
私が内緒で学校を休み休みしていることが知れたとき、母はあっけなく「そんなにいやなら、行かないでいいよ」と言いました。内心は動揺していたかもしれません。けれど、その言葉は私をとても楽にしました。中学校3年生のときのことです。
「学校に行かなければ」「でも行けない」
本特集は、そんな気持ちのはざまで苦しんでいる子どもたちが少しでも楽になるように、そして、そんな子どもたちについて多くの人に知ってもらえたらと考えて、編んだものです。
子どもが学校に行きたくないと言い出したとき、周囲の大人はどのようにその気持ちを受け止めるべきか。子どもの学びの形とは、本来どのようなものであるべきか。
かつてご自身のお子さんが不登校を経験した保護者の方々、「不登校新聞」の編集者・小熊広宣さん、教育学を専門とする中央大学教授・池田賢市さんとともに考えます。
学校に行けなければ人生が終わりだなんて、子どもが思い詰めることのないように。点数や偏差値ばかりを気にして、子どもが汲々とすることのないように。そんな思いを込めました。
(担当:島崎)

この企画のおかげで!(88号「ひと皿で満足の切り身魚料理」)

2017年05月31日

切り身魚IMG_6312
撮影直後のテーブルのワンカットです

みなさん、魚料理は好きですか?
毎日の食卓にどれくらいのぼるでしょうか?
実はわたし、編集部で一番、魚料理が苦手でした。
理由は、魚の生ぐさみが嫌い。
下ごしらえが面倒そう。
煮るか、焼くか、の乏しいレパートリーしかない。
魚の主食はボリュームに欠け、その他に副菜を作る必要があって大変。
などなど、キリがありませんでした。
でも、健康のことを考えると、もっと魚を食べたい。
そこで意識的に、いろいろな魚料理のレシピを試してみました。

そんななか出合ったのが、堤人美先生のレシピです。これが簡単で、おいしい!
さっそく先生に連絡、「魚が好きな人も苦手な人も、もっとおいしく魚を食べられる企画を考えているんです」と相談すると、
「お魚、大好きですよ!夕食のメインは、肉と魚の日が半々です」とおっしゃるではありませんか。心強い!
今回の先生へのリクエストは「魚のなかでも、切り身を使った料理を教えてください」というものです。苦手意識を持っている人にとって、魚をさばくのはハードルが高いですものね。
堤先生と何度もやりとりを重ね、“ひと皿でも満足するような切り身魚料理”を考えていただきました。それはこんなメニューです。

 ・切り身を使って、手間なくスピーディーに完成する
 ・野菜などと併せて、ひと品で食べごたえがある
 ・和洋中華にエスニックと、いつもと違う新鮮なおいしさ
 ・下処理をしたり、香りのよい食材を合わせることで、魚のくさみを抑える

今回は、塩サバ、生鮭、メカジキ、カツオを使ったレシピをご紹介していますが、代用できる魚も載っているので、その日手に入る旬の魚で作ることができます。
この企画のおかげで、魚売り場をのぞくのが、すっかり楽しみになりました。(担当:平田)

切り身DSC_0070

聞き書きに挑戦しませんか?(暮しの手帖 創刊70周年記念企画: 「戦中・戦後の暮しの記録」を募ります)

2017年05月30日

戦中戦後手紙ありDSC_0134

前号から開始しました原稿募集ですが、編集部には続々と原稿が届きはじめております。
「当時の子ども服が出てきて…。継はぎだらけだけど、これがうまく出来てるんですよ」、「亡くなったおじいちゃんが自費出版した本がありますが、その中からの抜粋でもいいでしょうか?」
といったお知らせやお問い合わせもいただきます。
ぜひお送りください、とお答えしております。
ご自身でお書きになった原稿だけでなく、当時の暮らしがわかる物や、すでに亡くなった方の遺されたものの投稿も大歓迎です(ただし、ご遺族の了承を得たうえでお送りください)。

そして、今回、私たちが声を大にお願いしていることが“聞き書き”です。
体験者ご自身の執筆はもとより、戦後生まれの方には、体験者の話を聞いて文章にする“聞き書き”を呼びかけています。おせっかいながら最新号では、「聞き書きのすすめ」と題し、手順とコツ、書き方をご紹介しております。ぜひ参考になさってください。直接当時の話を聞くことができる年月は、そう長くは残されていません。
戦争がいかに残酷で悲しいものか、戦後どれほどの苦労をしてきたのかは、体験者にしか語ることができません。だからこそ、記録として残し、後の人たちに伝えなければと考えています。
どうか、ふるってご応募ください。
(担当:村上)

下記、Webサイトからもご応募いただけます。
https://www.kurashi-no-techo.co.jp/70th

いとしいハギレで小物づくり(88号「ハギレを手縫いで」)

2017年05月29日

ハギレDSC_0090

洋服やかばんを作ったときのハギレ、みなさんはどうしていますか?
いつか何かに使えたら、と棚の奥にしまっている方も多いのではないでしょうか。ハギレをつなぎあわせて、すてきな小物を作れたら……。
そんな編集部の要望にこたえてくださったのは、えみおわすの水田順子さんと阿部直樹さん。ハギレそのものの形をいかしてランダムに縫いあわせたり、三角や四角をつなぎあわせるなど、たのしいアイデアを考案してくださいました。
不器用さでは誰にも負けない! と胸を張れる(?)私にとっても、ハギレを手縫いで縫いあわせ、小物を仕立てる時間は、なんとも言えない楽しい時間でした。
使う布や糸の色によってさまざまな表情になるので、手元にあるハギレを自由につなぎあわせて、ぜひ作ってみていただけたらと思います。(担当:井田)

bl_ハギレDSC_0020
暮しの手帖社の倉庫や編集部員の自宅にあったハギレで試作した、ななめがけバッグです。

単行本『神田裕行のおそうざい十二ヵ月』ができるまで

2017年05月26日

かんだDSC_0109

「本を作らせていただけませんか。これまで教えていただいたレシピを、もれなく、たくさんの方にご紹介したくて……」と、神田裕行さんにお願いにあがったのは、昨年の暮れのことでした。
神田さんは、ミシュラン三つ星を10年連続で獲得する日本料理の名店「かんだ」のご主人で、『暮しの手帖』で6年にわたって「おそうざい十二カ月」を指導してくださった、その人です。

神田さんは、にこにこと微笑んで、こうお答えになりました。
「よろこんで。
でもね、 “もれなく”なんて、欲張るのはやめませんか?」
欲張る……? しばし思考が停止した私をよそに、神田さんはこう続けます。
「だって、得意料理なんて、五品もあれば充分でしょう?
僕のお母ちゃんだって、そうでしたよ。
みんな、日々、レシピを増やそうとして、『ナントカのナントカ風』みたいな新しい料理に挑戦します。でもね、ふつうの料理を五品、ほんとうにおいしくつくれたら、『料理じょうず』って、胸を張ってええと思うんです。
だったら、みんなが味を想像できるような、ほっとする味わいの料理を厳選して、それを全部、三度は作ってみてもらいませんか。そして、『わが家の味』にしてもらいたいんです。」

驚きました。実は、神田さんのレシピ集はまだ世になくて、この本が初。できるだけたくさん、レシピを載せたいと考えてもよいのに……。「家庭で料理する人」のために、と真剣に考えてくださったことが、とても嬉しかったのです。
それから、「ほんとうに役立つ」レシピ集はどんなもの? 料理に自信がない人の、つまずきのポイントはどこだろう? 料理するたのしさを伝えるには? と、思考錯誤を重ね、神田さんならではの「毎日食べても飽きないおそうざい作りの秘訣」、「思い出のこもった料理レシピ」、「エッセイ」などを大幅に加筆していただいて、『神田裕行のおそうざい十二カ月』ができました。

本誌では、そんな神田さんの想いと、暮しの手帖社の本作りの様子が垣間見える記事をご紹介しています。
今はまだ自信がないけれど、「料理じょうずになりたいなあ」、と願う(私のような)すべての方に、ぜひお読みいただけたら、とてもうれしいです。
(担当:長谷川)

単行本の詳細は下記よりご覧いただけます。
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/books/b_1178.html

家のオーブンでもフライパンでも(88号「休日のピッツァ」)

2017年05月25日

ピッツァDSC_0064

編集部の新年会、実家の父上が漁師の長谷川さんが、金目鯛をさばいて腕を振るってくれるのが恒例になりつつあるのですが、彼女に甘えてばかりもいられないと料理本をめくり、「これを作ろう!」と盛り上がったのが、有元葉子さんのピッツァ・マルゲリータでした。
これがとっても簡単で、パリッと軽やかな生地がとてもおいしくて……。有元さんにあらためて色々なピッツァを教えていただこうと、企画が立ちあがったのでした。
実際にお話をうかがうと、イタリアのテレビ番組を見て研究なさったという、イーストを使ったやわらかーい生地が「今一番のおすすめ」とのこと。
そこで、やわらかーいふわふわの生地と、フライパンでも焼けるパリッと軽い生地の2種類を教えていただくことになりました。
定番のマルゲリータから魚介たっぷり贅沢ピッツァ、甘いデザートピッツァまで、トッピングもシンプルで絶妙。本当においしいピッツァを、ご家庭で楽しんでいただけるとうれしいです。
(担当:小林)

ピッツァDSC_0066

編集部、だれもいない!──編集長、最新号のご挨拶

2017年05月24日

澤田IMG_3875

ぼくの住まいは、北新宿。会社の近くです。歩いて5分。
家族は京都で、ぼくは単身赴任。
となると、物理的に家は仕事場=事務所みたいになってきています。
会社のパソコンと家のパソコンはまったく同じiMac、21.5インチだったり。
帰ってまた仕事を始めるときに、ありゃりゃと思ったりすることもしばしばです。あのファイルがない! とか。そうか、会社のほうだったなー、とか。
ともかくなんだか仕事ばかりしているのです。
特に原稿書きの仕事が多い(この文章もそうだ)。
1年半前の入社以来、極力編集部にいることにしていましたが、みんなが次々と相談ごとにやってくるので、楽しいけど、純個人作業である執筆には不向きであるということに気づきました。
原稿というのは、できれば一気呵成に書いたほうがいいと信じる者ですが、それがまったくはかどらないのです。
ハンコだけでも一日何度押していることでしょう。
試作だって気になりますよね。「コロッケ、試食お願いしまーす」って。それでなくても気が散る性格なのに。
ですので、最近は午前中を「自宅原稿書き」「講演用の原稿作成」等に使うということがけっこうあります。
昨日も、朝から3時間ほどかかって、とても面白い(気がする)原稿をしあげました。昔なら、原稿用紙をとんとんとそろえて、ふー、てなところです。
そのあとは急いでシャワーを浴びて出社です(原稿を書いたあとはくさくなっている気がなぜかするのです)。
編集長決裁の案件も多いはず。みんなが待ってくれているだろうなあ、すまんすまん、なんて思いながら、急ぎ足で4分、古いビルの3階の編集部まで駆け上がります。
ドアを開ける。
しーん──
だ、だれもいない! 昼の1時過ぎにだれも!? 今日は月曜日なのに。16人が消えた?
一瞬、ドッキリ? サプライズ? とも思いましたが、ぼくの誕生日は10月ですし、うちの編集部員はそんなにヒマではありません。
かろうじて発見したアルバイトさんに聞くと、「みなさんお昼ごはんです」と教えてくれました。
たまたまのからっぽ、だったんですね。
次の号の準備や撮影で忙しく、お弁当率も低いのでした。
ホワイトボード《行動予定表》の写真をおさえました。
どうですか、ずらりと「おひる」「おひる」「おひる」(1名「腰痛のためお休み」)。
面白いなあ。ぼなぺてぃ!
急いでやってきて、ちょっとだけソンした気がする編集長でした。

さあさて、というわけで、最新号発売です。
スタッフのみんな、お疲れさま。88号もたっぷりの試作、検証をやったね!
ピッツァも、9種のやきそばも、切り身魚も、確かにおいしかった!
ハギレで作る小物、すばらしく美しいね!
等々、読者のみなさん、じっくりと184ページ、ご堪能ください。
ご感想もお寄せくださいね。

澤田康彦(本誌編集長)

澤田IMG_3881

5 私も透明感を維持しながら成長したい

05_W5A8858_lag
87号刊行記念イベント 2017/4/10/19:00〜  「のんの愛する洋服づくり」
のん×澤田康彦(『暮しの手帖』編集長)
東京堂ホール(神田神保町/東京堂書店)  写真 長野陽一

巻頭特集「直線裁ちでつくる 春の はおりもの」で、ソーイングに挑戦した女優にして“創作あーちすと”の、のんさんとのトークイベントです。
趣味の縫い物のこと、『この世界の片隅に』のこと、最新刊のこと、質問コーナー……等々、「しゃべるのは苦手」というのんさんが、気づけばたっぷりお話ししてくれた貴重で愉しい記録です。
あっというまに満席となったイベントの、のんびりほっこり、笑いでいっぱいの幸福な空気感を、来られなかった皆様にもぜひお伝えしたく、できるだけ進行のままに再現しました。
のんさんの愛らしい、独特の間合いも、ぜひお楽しみください。
全5回でおとどけします。

5 私も透明感を維持しながら成長したい

澤田 ソーイング以外では、どんな趣味がありますか?
のん 絵を描いたりとか。
澤田 『創作あーちすと』では本当に楽しそうに描いてらっしゃいますね。
のん 好きなんですよ。あとは、ギター弾いたりとか。
澤田 矢野顕子さんとの対談のとき、ギターで歌もつくっているとかってお話しされていましたが。
のん そうなんですよ。最近なんですけどね。
澤田 どんな歌なんですか? いや、歌えとは言いませんけど。
のん ……パンクロックの感じですかね。
澤田 え、パンクかあ! 意外。かっこいいなあ。
のん ロックですね。でもあまり知識がないので。知ってるコードとかも少なくて、だから粗削りな感じが、パンクなんです。〔場内爆笑〕
澤田 あ~、粗削り……自分で言うんだ(笑)。あと、脚本を書いてみたいって欲望も聞いていますが。
のん そうなんですよ。趣味で文章書いてます。
澤田 すごい。本当に“創作あーちすと”なんだな。
のん (きりっと)そうです。
澤田 (笑)のんさん、面白いなあ。質問コーナー、続けます。質問項目、いろいろ持ってきたんです。えーと、≪何をしているときが一番充実していますか?≫
のん 仕事をしているときですね。
澤田 わ、かっこいい。そんなことぼく、思ったことない。
のん ありゃ、そうですか。私は、自分自身が何かを表現する……『この世界の片隅に』のすずさんとかもそうですけど……あと今日のようにオモテに出たり……あ、中ですけど(笑)、建物の中ですけれど、表舞台に出たりとか、そういうアウトプットをするお仕事が好きなんですね。だからけっこう楽しめているのかもしれないですね。
澤田 表現者だ。

続きを読む >

4 のんの、あの一直線の目

04_lag
87号刊行記念イベント 2017/4/10/19:00〜  「のんの愛する洋服づくり」
のん×澤田康彦(『暮しの手帖』編集長)
東京堂ホール(神田神保町/東京堂書店)  写真 長野陽一

巻頭特集「直線裁ちでつくる 春の はおりもの」で、ソーイングに挑戦した女優にして“創作あーちすと”の、のんさんとのトークイベントです。
趣味の縫い物のこと、『この世界の片隅に』のこと、最新刊のこと、質問コーナー……等々、「しゃべるのは苦手」というのんさんが、気づけばたっぷりお話ししてくれた貴重で愉しい記録です。
あっというまに満席となったイベントの、のんびりほっこり、笑いでいっぱいの幸福な空気感を、来られなかった皆様にもぜひお伝えしたく、できるだけ進行のままに再現しました。
のんさんの愛らしい、独特の間合いも、ぜひお楽しみください。
全5回でおとどけします。

4 のんの、あの一直線の目

澤田 よし、じゃあ今回のソーイングチャレンジも見ていきましょうね。
〔スライドを見ながら〕(*本誌p.153~158をご参照ください)
 新宿のオカダヤさんで生地を選ぶところからスタートです。この朝は、けっこう早い時間にうかがって、店内のいろいろな生地を見て、ターゲットをさがしてまわりましたよね。
のん そうですね。最初の楽しい時間です。
澤田 matohuの堀畑さんのいいアドバイスがありました。「好きな色や柄が、自分に似合うとは限らない」
のん 重要ですね!
澤田 姿見の前に立って、生地を自分の肩にかけてみましょうって。これまではこういう選び方はしなかったんですか?
のん しないですね。「好き」→「買う」、みたいな感じですね。
澤田 けっこうたくさんの生地を見て、「これかわいい!」「あれも!」って楽しんでいらっしゃいましたが、このメキシカンな生地を見つけたとき、のんさんの目の輝きが全く変わりました。「わあ、これ!」って叫んでた。
のん 満場一致で、これに。
澤田 「満場一致」というのは、のんさんのあの一直線の目を見たからです(笑)。
のん でも、この生地けっこう扱いづらくて、アイロンも低温でやらないといけないし、ちょっと時間がかかりましたね。
澤田 背中も“柄合わせ”があって。
のん そう、“柄合わせ”って、あんまりしたことがなくて、もうmatohuさんに頼りきりで……がんばっていただきました。
澤田 がんばっていただきましたって(笑)……君ががんばれ、ですよね。
のん ありゃ。本当に勉強させていただきながら、やりましたね。

続きを読む >

3 91歳の手と、23歳の手と

03_W5A8636_lag
87号刊行記念イベント 2017/4/10/19:00〜  「のんの愛する洋服づくり」
のん×澤田康彦(『暮しの手帖』編集長)
東京堂ホール(神田神保町/東京堂書店)  写真 長野陽一

巻頭特集「直線裁ちでつくる 春の はおりもの」で、ソーイングに挑戦した女優にして“創作あーちすと”の、のんさんとのトークイベントです。
趣味の縫い物のこと、『この世界の片隅に』のこと、最新刊のこと、質問コーナー……等々、「しゃべるのは苦手」というのんさんが、気づけばたっぷりお話ししてくれた貴重で愉しい記録です。
あっというまに満席となったイベントの、のんびりほっこり、笑いでいっぱいの幸福な空気感を、来られなかった皆様にもぜひお伝えしたく、できるだけ進行のままに再現しました。
のんさんの愛らしい、独特の間合いも、ぜひお楽しみください。
全5回でおとどけします。

3 91歳の手と、23歳の手と

澤田 ところで、『暮しの手帖』はまもなく創刊70周年を迎えますが、今まで1ページ目、表紙をめくったところに女優が写っているものってなかったんですよ。
のん 初!?
澤田 そう。で、最近のを調べてみたら、40号、2009年6-7月号の5ページ目に登場するのが……これです〔と、雑誌を取り出す〕……ジェーン・バーキンさん。
のん の、次っ?
澤田 に、のんさん。しかも巻頭です。と、それだけが言いたくて持ってきたんです。
のん 光栄です。ありがとうございます。
澤田 では今回の『暮しの手帖』の巻頭特集についてお話ししていきたいと思います。
〔二つ目のハンガーラック登場〕
 これは今回撮影で使った洋服です。matohuのデザイナー、堀畑裕之さん、関口真希子さんがデザインしてくださり、私たちでつくったものです。長い丈のものもあるし、短いものもあります。大小もある。
のん かわいい。
澤田 そして、今日のんさんが着ているものが、まさに現物。自作の一着です。
のん はい。がんばりました!
澤田 これも、店長が「あの生地を選ばれたんですね!」って(笑)。
のん すごく扱いにくい生地だったので、時間がかかって。matohuさんといっしょにつくりました。
澤田 メキシカンな柄だね! ってみんなで言ってたんですけど。
のん そう、メキシカーン!
澤田 でも説明見たら「チロル」ってありました(笑)。ヨーロッパやん。なので、本当はチロリアン!
のん チロルに住んでるメキシコの人ってイメージです(笑)。
澤田 「直線裁ちのはおりもの」をつくる、という企画だったんですけど、このプラン、最初どう思われましたか?
のん 素敵! と思いました。直線だけでつくれるというのは魅力的ですよね。やっぱりカーブがあるとへんに曲がっちゃうので。そもそも私は、直線を、曲げずに縫うのもむずかしいから。
澤田 はおりものっていいですよね。春のスプリングコートとか、トップコートって言葉も響きもいいし。
のん まさにそうですね。快適で。
澤田 小さな子もお母さんも、老若男女で着られるっていう仕様です。『暮しの手帖』ではいつもそういうものを紹介していきたいと思っているんですよ。「男の人もつくりなさい!」って、まだやったことないぼくが言うのもどうかと思うんですけど、すごく願うんですよ。女性誌とは全然思っていないんです。

◆パン屋さんだあ~っ!

澤田 のんさんは、ファッション撮影とかは得意ですか? 楽しい?
のん 楽しいです。好きです。
澤田 ぼくにとっても、久々のロケ撮影でした。あまり予算のない『暮しの手帖』で、珍しくロケバスを用意して。うれしかったですね。みんなが早朝約束した時間に集まって、プロたちがそれぞれの仕事をきびきびとこなして……。
のん いいですよねえ。
澤田 いいですよねえ!
のん あ、私、この撮影の帰りにパン屋さんで、パンを買いました。
澤田 あ! すみません、お弁当出さないで(焦)。
のん や、そういうことではなくって(笑)、なんか日頃、初めてのお店に入ることがあまりないんですよ。でもこの日は街に出て、『暮しの手帖』の撮影が楽しくて、とても気分よくなって、帰りに歩いていたら、「パン屋さんだあ~っ!」って(笑)。
澤田 麻布十番でしたね。
のん そう。かわいいパン屋さんで、思わず買いました。美味しかった。
澤田 のんさんは、『暮しの手帖』って、直線裁ちを創刊号からやっているって知ってました?
〔スライドで、創刊号のファッション写真を見ながら〕
のん あ、かわいい。「直線裁ちのデザイン」だ。
澤田 モデルは大橋鎭子。
のん わ、とと姉ちゃんですね!
澤田 そうです。創刊が1948年。創刊から自分の手で服をつくっていこうっていう精神のままにここまで来て、今回も、のんさんの手で服をつくっていただいて、またこんなふうに20年30年後も続いていくんだろうなあ、続いていってほしいなあ……と思いますね。
 今回の87号が出たときに、「ひきだし」っていう定例ページを書いていただいている渡辺尚子さんというライターさんからメールが来たんです。それがとてもうれしい文章だったので、その中の一部を紹介させてもらいますね。

「『暮しの手帖』の87号がとっても良くて、それを伝えたくてメールしました。
花森さんのことばの隣に、のんさんの真剣なまなざしのあの写真があることに、まず、力をもらいました。花森さんのことばは、今日も生きているな、と感じました。
そのあとは、のんさんのあの扉写真の手に惹きつけられてしまいました。
女優がものをつくる演技をしているときの手ではなくて、あれは、ものつくりが、ものをつくっているときの指先。
この人は、ものつくりなんだ! と、ハッとしました。
私がうれしかったのはもうひとつ、カンタの望月さんと、のんさんが、同じ号に載ったことです。
64ページの、望月さんがカンタに針を刺そうとしている手と、のんさんの、布にはさみを入れようとしている手は、どちらもまごうことなき、ものつくりの手だと思います。
ものつくりの魂は、作品のなかに宿っているのではなくて、こんなふうに、手から手へ手から手へ手から手へ……と気が遠くなるほど繰り返されながら受け渡されて続いていく、その生活のなかに息づいているのだ、と91歳の手と、23歳の手を見ていて、感じました。
そのことに、大きな勇気をもらいました」

〔場内大拍手〕
のん やったー! ありがとうございます。
澤田 ぼく自身が、『暮しの手帖』ってこういうことなんだな、と教えていただいたようなメッセージでした。
のん 本当に望月さんのカンタ刺繍が素晴らしくて。全部手縫いですよね。
澤田 そうです。
のん 身近にあるものをモチーフにするんですよね。葉っぱとか。これはどのように縫っているんだろう?
澤田 それは望月さんに聞いていただきたい!
のん あ、はい(笑)。
澤田 偶然なんですよね、91歳と23歳が同じ号で、同じ1冊の中で手を使って、ものをつくっているって。でも必然なのかな、『暮しの手帖』においては、とも思いました。
のん 91歳というと……もしかすると今のすずさんと同じくらいかも。
澤田 あ、そう!? それも素晴らしいことですね。
03_02

◆何でも毎回失敗しながらです

澤田  ちなみに今号の『暮しの手帖』、ここのページがよかったとかってありますか? この記事がよかった、とか。編集長のエッセイがよかったとか。
のん あ、えーと、今の望月さんのページ、すごく素敵でしたね。ほかには……ごはん!
澤田 ごはん?
のん えーと、そう、パスタ! 貝殻のマカロニの料理。
澤田 コンキリエですね。
のん イワシとグリンピースのオイルパスタ……か。美味しそう! って思いました。
澤田 のんさんは料理はする方ですか?
のん するっちゃするんですけど……いつも同じものばかりつくるんです。知らない食材とか、使いなれていない食材に挑戦することがなくて。
澤田 得意料理は何ですか?
のん ハンバーグとかですかね。自分が好きなので。こねるところから。刻んだ野菜を入れて、練って。煮込みハンバーグが好きですね。でも毎回上手くいかないんですよね(笑)。
澤田 あ、そうなんですか! ソーイングのときもそうおっしゃってましたね。
のん そうですね。何でも毎回失敗しながらです。
澤田 上達のもとはそれですよね。
〔つづく〕

2 バレとりましたか?

02_W5A8577_lag
87号刊行記念イベント 2017/4/10/19:00〜  「のんの愛する洋服づくり」
のん×澤田康彦(『暮しの手帖』編集長)
東京堂ホール(神田神保町/東京堂書店)  写真 長野陽一

巻頭特集「直線裁ちでつくる 春の はおりもの」で、ソーイングに挑戦した女優にして“創作あーちすと”の、のんさんとのトークイベントです。
趣味の縫い物のこと、『この世界の片隅に』のこと、最新刊のこと、質問コーナー……等々、「しゃべるのは苦手」というのんさんが、気づけばたっぷりお話ししてくれた貴重で愉しい記録です。
あっというまに満席となったイベントの、のんびりほっこり、笑いでいっぱいの幸福な空気感を、来られなかった皆様にもぜひお伝えしたく、できるだけ進行のままに再現しました。
のんさんの愛らしい、独特の間合いも、ぜひお楽しみください。
全5回でおとどけします。

2 バレとりましたか?

澤田 みなさん、今日はのんさんがつくった洋服を持ってきてもらっているんですよ。
〔ハンガーラック登場〕
お客さま わあ!〔「すてきー」「すごーい」の声、あちこちから〕
澤田 4着。これらはつくったうちの一部ですよね。
のん そうです。
澤田 つくった順に教えてください。
のん はい。ではこれ……トップスでーす。
澤田 自慢ポイントは何ですか?
のん 自慢ポイントは、この袖の広がったライン……始末したんですけど、中に折り込んでないところが、チャームポイントです。あとですね、ここすごくがんばったんです。初めて、テープ……えーと何とかテープを……えーとえーと……
お客さま 「バイアス」テープ!
のん あ、そう(笑)、バイアステープを初めて使って、つくったんです。ちょっとゆがんじゃってるんですけど、自分では気にいってます。
 次はこれ。NaniIRO(なにいろ)さんっていう作家さんのガーゼの布……絵の具を乗せた柄の作品が好きでつくってみたんですけど、このふわふわ袖がポイントです。流行ってる!
澤田 流行ってるんだ?
のん そう、流行ってる! そうだ、あと、ここがきれいになっているんです。「バイアス」テープのところ。〔場内笑&拍手〕
澤田 バイアス、覚えました。
のん 前のよりも技術が上がっているところがポイントです。
澤田 では、三つ目。

続きを読む >


暮しの手帖社 今日の編集部