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暮しの手帖だよりVol.20 spring 2020

2020年04月10日

dayori20

絵 堀内誠一

心が塞ぎがちないまだからこそ、
日々の暮らしを大切にしたい。
春、まっさらな気持ちを呼び覚ます、
新鮮味のある企画をそろえました。

文・北川史織(『暮しの手帖』編集長)

 

あれは確か正月三が日あたりのこと、本棚の奥から引っ張り出して久しぶりに読んだ本があります。
沢村貞子さんの随筆集『私の台所』(暮しの手帖社刊/現在品切れ)。赤い更紗模様の装釘はかなり色あせていて、裏には100円の値札が貼りついたままです。私がこの本を古本屋で買ったのは、もう20年以上前、二十歳の頃でした。
親元を離れて、自活の一歩を踏み出したあの頃。一口コンロのついた、おままごとみたいなミニキッチンで料理するのも、掃除や洗濯も、ごみ出しさえも新鮮で楽しかった、あの頃。
自分の「暮らし」というものをおずおずと築き始めたばかりの私にとって、沢村さんが描きだす年季の入った暮らしの味わい方は、ただ想像をめぐらせて憧れる世界でした。
たとえば、ドラマの収録で遅くなりそうなとき、沢村さんはお弁当をこしらえていくのですが、その献立は、青豆ご飯、みそ漬けの鰆の焼物、庭で摘んだ木の芽をのせた鶏の治部煮、菜の花漬けやお新香など、旬の味覚がちょっとずつ詰まっていて、たまらなく美味しそうなのです。
塗りのお弁当箱は、深夜に帰宅したらすぐにぬるま湯で洗って拭き、きちんと乾かしておく。ああ、どんなに忙しくても、こうして暮らしを慈しむって、素敵だな。こんな大人になれたらな。ワンルームのアパートで、若かった私はため息をつきながら読んだものでした。
翻っていま、そんな暮らしが築けているかと言えば、いやはや、これがまったくなのです。
それでも、慌ただしい一日の終わりに簡素な食事をつくり、好きな器に盛ってもぐもぐと味わっていると、じんわりと幸せを感じ、また明日も頑張ろうと思える……そんな心持ちは、この本が育ててくれた気がします。

 

*

 



さて、今号の巻頭の言葉は、この随筆集の一編「あきていませんか」から文章を引いて綴ってみました。
沢村さんのような人でさえ、毎日同じことをくり返していると、気持ちがドンヨリと淀むことがある。そんなときは、「どんな小さなことでもいい、とにかく目先きをかえることである」と彼女は書いています。
それで思い当たるのは、朝ごはん。ついルーティンでお定まりのメニューを並べ、内心飽きながら食べてはいませんか? 
一つ目の料理企画「つながる朝ごはん」では、料理家の手島幸子さんが10年来実践している朝食の知恵をお伝えしています。
たとえば、豚肉をまとめてゆでておき、ある日はみそ汁に入れて豚汁風にし、またある日は、さっと炒めてしょうが焼きにする。野菜は買ってきた日に切ったりゆでたりと下ごしらえをして、数日にわたって使う。
そんな工夫で、旬を感じられるさまざまな献立を、毎朝15分くらいでととのえているのです。
「こんなまめまめしいこと、自分には無理!」と思うかもしれませんが、ご紹介するアイデアから一つでも試してみると、その便利さに気づくはず。私は夕ごはんに活用しています。

 

**

 

「春野菜をシンプルに食べたい」では、新じゃが、菜の花、新にんじん、うどなど6種の春野菜の、ごく簡潔な調理法を長尾智子さんに教わりました。特別な調味料やスパイスは使っていないのに、なぜか洒落た味わいで、まさに「目先きをかえる」料理ばかり。
私が何度もつくっているのは菜の花のソテー。にんにくの香りをうつした油でじりじりと焼くだけですが、半熟玉子をソース代わりにいただくと、とても美味しいのです。
そのほか、「ラム肉料理入門」は、最近入手しやすくなったラムチョップやラムのうす切り肉、ステーキ用のもも肉で、照り焼きや焼きそばといった親しみやすいメニューをつくるご提案です。
「ラムはちょっと苦手」という方、騙されたと思って、ぜひお試しください。

 

***

 

すっかり暖かくなってきたこの頃、シャツやカットソーの出番ですね。お手持ちのシャツなどに、たんぽぽの花や綿毛、ツリーなどの愛らしい刺繍をほどこして、また新鮮な気持ちで着てみませんか? 
「ちいさな刺繍で春じたく」は、そんな手芸の企画です。指導してくださったのは、神戸のファッションブランド「アトリエナルセ」デザイナーの成瀬文子さん。
ご自身がお子さんの持ち物に気ままに楽しんで刺してきたそうで、今回の刺繍もむずかしい技法は使っていません。サテン・ステッチで十字に刺すだけの、大人っぽいモチーフも素敵です。


 

****

 

「40歳からの、自由になるメイク」は、『暮しの手帖』にはちょっと珍しい企画だと思われるかもしれませんね。
でも、メイクもお洒落の一つですし、ときにはこれまでのやり方を変えてみると、新しい気持ちで自分に向き合えるかも。毎朝、惰性や義務感でメイクをするのは、なんだかもったいないと思うのです。
ヘアメイクアップアーティストの草場妙子さんが教えてくださったのは、眉、肌、リップに焦点をあてた、ミニマムなメイクです。ファンデーションは驚くほど薄づきですが、肌本来のつやが生かされて、みずみずしく見える。アイラインは省いてもマスカラをしっかり塗ることで、目元がきりっとする。
私はもともと、ミニマムならぬ朝5分の手抜きメイクをしてきたのですが(笑)、教えていただいた方法を意識したら、手順がよりシンプルになったぶん、一つひとつを丁寧にやってみようという気持ちになりました。
単なるノウハウではなく、読んで「なるほどなあ」という勘所をつかみ、自分に合わせて生かせる、そんな頁になっています。

 

*****

 

最後にご紹介したいのは、「子どもの虐待を、『かわいそう』で終わらせない」。
「虐待」と聞くと、「なぜこんなことがくり返されるのか」と怒りを感じる方も多いかもしれません。あるいは、子育て中であるなら、「他人事じゃない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
今回の企画は、虐待をされた人をさまざまに支援している高橋亜美さんと、虐待をしてきた人の回復をサポートする森田ゆりさんへの取材を軸にしています。
なぜ虐待は起こるのだろう? それはあくまで家庭内の問題で、当人たちが向き合えばいいことなのだろうか。社会のなかの一人として、私たちができることはあるのだろうか。たとえ、自分は虐待をしていなくても、子どもがいないとしても。
簡単には解決できない問題ではありますが、そんなことを考えながらお読みいただけたらと思います。

 

******

 

いまは新型コロナウイルスの影響で、大変つらい思いをされている方も数多くいらっしゃいます。外出もためらわれ、先が見えない状況のなか、どうにも欝々とした気分になりがちですね。
こうした状況だからこそ、自分たちの暮らしにじっくりと向き合い、いろいろなことを見つめ直してみるのはどうだろう。私はそう考えています。自分の手で毎日の食事をつくる意味。食材や日用品がふつうに手に入るありがたさ。
情報に踊らされず、他者に不寛容にならず、背すじをすっと伸ばして、日々を大切に歩んでいけたらと願うばかりです。
私たちのつくったこの一冊が、何かしらのヒントになれたら幸せです。どうか、心身健やかにお過ごしください。

 

下記の見開きページの画像をクリックすると、拡大画面でご覧いただけます。

 

◎リーフレット「暮しの手帖だより」は、一部書店店頭にて配布しています。
印刷される場合は、下記のトンボ付きPDFをダウンロードし、A3で両面カラー印刷されると四つ折りリーフレットが作れます。

・暮しの手帖だよりVol.20 PDFをダウンロード

春の装いに、心浮き立つ刺繍を

2020年04月10日

10刺繍DSC_0097春の装いに、心浮き立つ刺繍を
(5号「ちいさな刺繍で春じたく」)

今日はちょっと元気を出したいという時や、ここぞという大切な時に、
手に取るハンカチがあります。
それは、成瀬文子さんがデザインを手がける「アトリエナルセ」の
月の刺繍のハンカチです。
こんなふうに心が浮き立つ刺繍を、身近なアイテムに刺すことができたら――。
そんな思いから、今回の企画は始まりました。

誌面では、ふわふわと舞い飛ぶたんぽぽの綿毛や、
花びらの数が少しずつ異なる小花、前述の月のモチーフなど、
どこか有機的だったり、遊び心が感じられる図案をご紹介しています。

「刺繍というと、図案通りにきっちり刺さなければと
考える方も多いと思いますが、今回ご紹介する図案はシンプルなものが多いので、
布地にざっくりと写し、あとは全体のバランスを見ながら
自由に刺していただいたら」と成瀬さん。
その言葉を思い出しながら実際に刺してみると、
「木の枝葉の伸び方を少し変えてみようかな。
この花は、花びらを6つにしてみようかな……」と、
どんどん楽しくなっていきました。

まずは、お好きな図案をひとつ、お手元のシャツや靴下、カットソーなどに
刺してみていただけたらと思います。
お子さんのものに刺すのも、おすすめですよ。
(担当:井田)

実は、いろんなメニューに使えます

2020年04月09日

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実は、いろんなメニューに使えます
(5号「ラム肉料理入門」)

最近スーパーで、ラム肉のうす切りやラムチョップを目にすることが増えてきました。
レストランでラム肉のメニューを見かけると、迷わず注文するほど好きなのですが、
家で料理するとなると、さて、どうやって使ったらいいものか……。
豚肉や鶏肉のようには、メニューが浮かびません。

そこで、かれこれ20年以上前からご自宅でラム肉を使って料理を作り続けているという、
料理家のMakoさんを訪ねました。
すると、回鍋肉やから揚げ、ドライカレー、焼きそばなど、
親しみのある定番メニューのほか、
ハーブパン粉焼きやステーキなど手軽に作れるごちそうまで、
次々とメニュー案をあげてくださいました。

どれも絶品でしたが、なかでも驚きだったのが、回鍋肉と焼きそばです。
これからはラム肉で作るぞ! と心に誓うほどのおいしさで、
「ラムはクセがあるから苦手」という編集部員も、試作した料理を喜んで食べてくれました。
ぜひ、今夜のおかずにお試しください。
(担当:井田)

自分の家を持つってどういうこと?

2020年04月07日

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自分の家を持つってどういうこと?
(5号「ぼくらが家について考えたこと」)

唐突ですが、我が家は3年前にマンションを購入しました。
通勤には1時間ほどかかりますが、子どもが通う小学校までは徒歩2分、最寄り駅まで徒歩6分。徒歩圏内においしいベーグル屋さんとインドカレー屋さんがあります。
家を持つとき、わが家が重視したのは、慣れ親しんだ生活圏から外れないことでした。
そのためには、多少部屋が狭くとも眺望が悪くとも目をつぶろう、と思えたのです。

我が家に限らず、人は家を建てたり買ったりするとき、
「これまで何を大切に暮らしてきたか」を振り返り、そして「これからどんな暮らしを築いていきたいか」に思いを巡らせるのではないでしょうか。
子育てのこと、両親のこと、仕事のこと、地域のこと……。
暮らしの軸は人ぞれぞれ、家という場所に何を求めるかもそれぞれ異なります。

このページでは、ともに40代で子育て真っ最中、そして自分の家を持ったばかりという共通点のある、
絵本作家のきくちちきさんと写真家の平野太呂さんに対談していただきました。
自身が子どもの頃の経験や、仕事のこと、ローンのこと、子育てのことなど、
家を持つときに考えた様々な事柄を、ざっくばらんに語ってくださっています。
平野さんが撮影した写真にも、それぞれの家族の個性があふれ出ていますので、
じっくりご覧ください。
(担当:田村)

これでもう迷いません

2020年04月03日

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これでもう迷いません
(5号「味つけ便利帖」)

これの分量、なんだっけ。
それまでリズミカルに動いていた手が止まり、
急いで料理本の頁をめくる――。
なかなか見つからず、諦めて記憶任せに調味したら、
味がぼんやりしていたり、甘すぎたり、塩からかったり……。
そんな経験はありませんか? 

この企画では、
「よく作るのに、なかなか思い出せない、“あの味”の調味料の配合」を、
ひと目でわかるように一覧にまとめました。
教えてくださったのは、料理家の大庭英子さん。
水からできるめんつゆや、具材がうま味になる炊き込みご飯、
肉や魚にも合う照り焼きのタレなど、和洋中8種類の調味料の配合を
作りやすく指導してくださいました。
また、くぼあやこさんによる料理のイラストは
グラタンの焦げ具合がなんともリアルだったりと、食欲をそそります。
ぜひ頁のコピーをとり、台所の片隅や冷蔵庫の扉に貼り付けてご活用ください。(担当:中村)

なぜこんなに元気なの?

2020年04月02日

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●なぜこんなに元気なの?
(6号「子どもの虐待を、「かわいそう」で終わらせない」)

最近、さまざまなところで耳にする「子どもの虐待」問題。
私自身、虐待の報道がある度に動揺し、「けれど何もできないし……」という無力感をずっと抱えていました。
虐待のことを知る努力をしようと思っても、実際の加害の様子をレポートした記事などは、辛くて読めない。
そんなへっぴり腰の私でも、この問題に関わる方法が、きっとあるはず。それを模索したのが、今回の企画です。
取材に応じてくださったのは、虐待当事者のケアを行っている高橋亜美さんと森田ゆりさん。
お会いする前は、「なぜこんなに大変な仕事をしているのですか?」と、お二人に問いたい気持ちでいっぱいでしたが、
その疑問はやがて、こう変わりました。
「二人とも、なぜこんなに元気なの?」
その答えは、取材を重ねるうちにふと空から降ってきました。
「あ、人って、人から元気をもらうんだ」
 
高橋さんと森田さんは、虐待の被害・加害者に深く関わり、寄り添います。
それは私の想像も及ばないほど大変なことだと思いますが、その一方で、それぞれの人が持つ「生きよう」とする力に、
とてつもないパワーをもらっている。お二人の話を聴くうちに、それが段々とわかってきたのです。
「支援者は与える側」という私の思い込みが、崩れ去りました。
 
深い関わりを持たなくても、例えば人と挨拶を交わし合うだけでも、人はちょっと元気になったりします。
人の持つ生命力が触れ合うからなのでしょうか。私はそんな簡単なことに、今まで気がつかなかったのです。
「虐待の問題に対して、何かできることはある?」という問いの答えも、その気づきの延長線上にありました。
膝を打つような画期的な答えではありませんが、だれにでも、今からでもできることを提案しています。
 
この企画では、もうお一人、まゆみさん(仮名)という方に取材しています。
子どもの頃の虐待の記憶を抱えながらも、今を生きるために、少しずつ歩んでいる様子を聴かせていただきました。
「読んでいる人たちに、何か少しでも伝わるものがあれば」と、取材に応じてくださいました。
ぜひ、多くの人にお読みいただきたいと思います。
(担当:田島)

夕食作りにも役立つんです

2020年03月31日

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夕食作りにも役立つんです
(5号「つながる朝ごはん」)

みなさんは、朝ごはんに定番のスタイルがあるでしょうか? 
低血圧の私の場合、ベッドから何とか起き上がったら、台所へ直行、薬用養命酒をぐいっとひと口飲んで目を覚まし、濃いコーヒーを淹れる。その間にパンをひと切れ焼き、果物を切って口へ放り込み……とまあ、お世辞にもスタイルがあるとは言えません。
あるとき、私の料理の先生、手島幸子さんとご自宅で話をしていたら、手島さんの朝ごはんはだいたい毎日違うメニューで、ご飯とおみそ汁におかずが2~4品、それを15分ほどで手早くととのえているとのこと。
「ためしに召し上がってみる?」と手島さんが台所に立ち、ささっと出してくださったのは、こんな献立でした。

・巻かない玉子焼き
・切干大根と坊ちゃんかぼちゃの煮もの
・プチトマトとほうれん草のおひたし
・漬け物(お気に入りの店で購入)
・青さ入りのみそ汁
・ご飯+自家製のゆかり

ああ、これは私にとっては晩ごはんくらいの品数なのだけれど。
聞けば、このなかで一から作ったのは玉子焼きくらいで、あとは、前日の夕食のおかずに常備菜を組み合わせてから「味変」させたり、あらかじめまとめて切っておいた「ストック野菜」をみそ汁の具にしたり。
つまり、夕食作りとうまく「つなげる」ことで、時間もかからないし、飽きないし、食材にも無駄を出さない工夫を凝らしているのでした。
でも手島さんは、そんな工夫は「時短のため」ではなく、「旬を感じられる献立を無理なくととのえるため」とおっしゃいます。「朝ごはんが幸せなものだと、一日をご機嫌で始められるでしょう?」と。

今回の企画では、手島さんが日々実践している「つなげる知恵」をいくつもご紹介しています。
帰宅が遅くなりがちな私は、夕食作りのほうで活用していますが、とても助かっています。一つでも二つでも、あなたの暮らしに合わせてお試しください。
(担当:北川)

義務感からの開放

2020年03月30日

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義務感からの開放
(5号「40歳からの、自由になるメイク」)

朝、鏡に向かいながら「あぁ、面倒だな」とため息をついていませんか?
もしくは、「ここ数年もうメイクはしていないわ」という方もいらっしゃるでしょうか。

このメイク企画は、若返りの術や時短テクニックをご紹介するようなものではありません。
メイクをすることをおっくうに感じている方、毎日義務のように同じメイクを続けている方、
メイクになじみがなく、どうしたらいいかわからない……というような方に、ぜひ読んでいただきたい企画です。

「メイクに間違いなんてないんです。こうすべきというのもないですから、もっと自由に楽しんでほしい」と、
メイクアップアーティストの草場妙子さんはおっしゃいます。

今回、世代の違う3人の女性に、草場さんがメイクをしてくださいました。
「それぞれの良さをそのままに、すこしだけ施す」というメイクは、実にシンプルで、
皆さん「え! もうおわり?」と驚きながら、鏡を見てびっくり。とても自然体ですてきに仕上がっていたのです。

「アイメイクをしなくても、眉をきちんと描けば目元がひきしまる」というように、すべてに手をかけずともポイントを押さえれば、健やかでイキイキとした表情に。モデルさんだけでなく、スタッフ一同「目から鱗」の撮影でした。
そんなコツやポイントを、ぎゅうっと詰め込んだ8頁です。

この撮影以来、すっかりその面白さに目覚めてしまった私は、
毎朝(子どもの世話を少々手抜きして)メイクの時間を楽しむように。
メイクをし始めたころの弾むような気持ちを思い出しました。
(担当:小林)

あたたかい人

2020年03月27日

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あたたかい人
(5号「わたしの手帖 心の垣根をなくしたら」)
今回の「わたしの手帖」は、東京で一人暮らしをしている、
86歳の星信郎さんが登場します。
これまでの人生の歩みの中で、大切にしてきたことを伺いました。
星さんのお住まいは、日あたりの良いマンションの6階。
お部屋には、たくさんの植物が並び、
大きな鉢にはイチゴがたくさん実っています。
ワインの木箱は小さな棚に、囲碁盤には脚をつけてサイドテーブルに、など、
さりげない工夫に満ちていました。
その全体が調和したは、とても居心地がよく、
なんて豊かなんだろう、と思いました。

長い間、美術学校で教師をしていた星さんは、
目に見えるものだけでなく、人と人との関係性の中にも、
美しさや調和を見つけ、大切にしています。
東北訛りでゆっくりと、明るく冗談を交えながら率直にお話をされる星さんの言葉に、
力が抜けてほっとしたり、ハッと、気づかせてもらったり……。
取材の帰り道は、わたしの心がほかほかに温かくなっていました。
「心の垣根は、持つまいって思ってるよ」
そう話す、星さんの人生の手帖には、どんな言葉が並んでいるのでしょうか。

写真は、川内倫子さんにお願いしました。
撮影当日はあいにくのお天気でハラハラしましたが、
川内さんがカメラを出すと雲が晴れて、光が差してきた、その瞬間が忘れられません。
(担当:佐藤)

かんたんなのに、洒落たおいしさ

2020年03月26日

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かんたんなのに、洒落たおいしさ
(5号「春野菜をシンプルに食べたい」)

どんな季節でも、野菜はたっぷりとりたい性質ですが、とりわけ春野菜となると、短い旬を惜しんであれこれ食べたくなります。あたかも、冬眠からむくっと目覚めたクマが、むしゃむしゃ野草を食べるような衝動でしょうか。
新じゃが、新玉ねぎ、新にんじん、菜の花、新キャベツ、うど。
今回、長尾智子さんが教えてくださったのは、そんな6種の春野菜をごくごくシンプルに調理して味わう方法です。
たとえば、「新玉ねぎのフライパン焼き」。新玉ねぎを4等分し、フライパンでじっくり蒸し焼きにしたら、バターをからめて仕上げ、すりおろしたチーズをかけるだけ。
たとえば、「菜の花のソテー」。にんにくの香りをうつした油で菜の花をじりじりと焼いたら、半熟玉子をソース代わりに。
ああ、手間という手間はかからないのに、なぜこんなに洒落たおいしさなのかしら。

おかずとしてはもちろん、お酒のおともにもぴったりの料理ばかり。「うどの皮の揚げもの」は、小さなガレット風で、塩とマスタードで味わいます。
「いかにもおいしそう!」と思ったあなた、春野菜はいまが食べごろですよ。
(担当:北川)

旅を愛し、旅を撮った人

2020年03月25日

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旅を愛し、旅を撮った人
(5号「堀内誠一、旅を撮る」)

ある日、編集部に「父が撮った写真を見てください」と連絡がありました。
その父とは、堀内誠一さん。
絵本作家として、アートディレクターとして、たくさんのヒット作を手がけてきたレジェンドですが、
私には「写真を撮る」というイメージがありませんでした。

堀内さんの娘の花子さんを訪ねたところ、
旅先で撮った、たくさんのポジフィルムが大切に保管されていました。
大の旅好きだった堀内さんは、
1970~80年代のヨーロッパをはじめとする国々で、
今はなき風景や、人々のいきいきとした姿を切り取りました。
なかには、描いた絵そのままのような写真も!

誌面では、そんな堀内さんの写真や絵とともに、
家族との旅の思い出を紹介しています。
「天才」と呼ばれた人が家族に見せる顔は、実にあたたかいものでした。

現在、京都の美術館「えき」KYOTOにて開催中の
「『anan』創刊50周年記念展」(~4月5日)では、
堀内さんが活躍した誌面が見られます。(担当:平田)
https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_2004.html#event

心の垣根をなくしたら

2020年03月24日

表1右振りDSC_0061

心の垣根をなくしたら
――編集長より、最新号発売のご挨拶

なんだか身体の節々が妙にこわばって、とくに首や肩のあたりが固まっているよう、おかしいな、疲れがとれないな……と感じるようになったのは、2週間ほど前だったでしょうか。
休みの日に、台所でこぽこぽと湯を沸かし、中国茶を淹れてぼうっとすすっていたら、ああ、そうかと気づきました。あのウイルスのせいで、どこか緊張して過ごしているんだ。自分は神経が太いほうだけど、やっぱりちょっと気疲れしているんだな、と。
みなさんはいかがですか?
買い占め、デマ、いろんな差別。目に見えないウイルスの不安が忍び寄るとともに、人のいやな面があれこれ目につくようになった気がします。もしかしたら、人ってあんがい繊細で、弱くて、ときに不安に流されてしまうところがあるのかもしれません。
けれども、どんなときでも、まずは物事を自分の胸に引き寄せて判断したい。情報に踊らされず、他者に不寛容にならず、心を平らに、やさしさを忘れることなく暮らしていけたら。
「何をかっこつけたことを」と言われそうですが、こんなときこそ、努めて格好つけて、そう思いたいのです。

心の垣根をなくしたら。
今号の巻頭記事のタイトルであり、表紙に掲げた言葉です。いまの風潮に合わせて考えたわけではありませんが、期せずして、ぴったりの言葉になりました。
大きく深呼吸してまわりを見渡してみれば、私たちの暮らしは、まだまだ「ふつう」が保たれているように思います。ほとんどの日用品が手に入り、ちゃんとごはんが食べられて、ぐっすりと眠りにつける、「ふつう」の有り難さ。
言わずもがな、そんな暮らしは無数の誰かの「働き」によって支えられています。いま、ふだん通りに仕事ができないなど、いろんな理由で苦しい思いを強いられている人たちが、まっとうに報われることを願うばかりです。
今号も、朝ごはん、春野菜、ちいさな刺繍、メイクアップ等々のラインナップで、自慢じゃありませんが、目を惹く派手な企画は何ひとつありません。しかしながら、自分の手で工夫しておいしいものをつくり、しっかり食べて、お洒落心をときめかせて暮らしていけること、それはささやかだけれど、けっこう幸せなことなんじゃないかと、いま思うのです。
どうか、私たち一人ひとりのふつうの日々が、ごく当たり前に、幸せでありますように。背すじをすっと伸ばし、顔をあげて、不安に流されずに、おそれずに歩んでいきましょう。

『暮しの手帖』編集長 北川史織


暮しの手帖社 今日の編集部