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海外での暮らしを綴っていただきました

2020年06月04日

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海外での暮らしを綴っていただきました
(6号「住む国変われば」)

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっているいま、
海外の政策や暮らしを目にしたり、調べたりする方が多いのではないでしょうか。

今号から始まる新連載「住む国変われば」では、
日本に生まれ育ち、長年海外に暮らす方に、日本とは異なる暮らしについて執筆していただきます。
執筆者は毎号変わり、初回はスウェーデン在住のガラス作家・山野アンダーソン陽子さんにお願いしました。

スウェーデンといえば、新型コロナウイルス対策で、
北欧諸国も含むヨーロッパの多くの国が全国的な封鎖措置を取り、厳しい移動規制を敷いるなか、
厳しいロックダウン(都市封鎖)を行わない国として、世界中の注目を集めています。

5月上旬、陽子さんからこんなメールをいただきました。

スウェーデン政府と公衆衛生局は、早い段階から”コロナと共存の道しかない”と判断しました。
ワクチンや特効薬がないので、感染しないに越したことはないけど、
経済活動等の生活をを止めるわけにはいかないので、
国民一人一人が心がけつつ、出来るだけ通常通り生活を送り、
医療崩壊しないようにゆっくり感染していきましょう、というスタンスです。

スウェーデン、大丈夫か?! と思っていたのですが、
日数が経つにつれ、補償がきちんとされる国だから成り立つことや、
人口が少ないのでできる対策だと感じます。
延命もしないので、医療崩壊もしていません。
3000人以上が亡くなっていますが、95%以上が60歳以上の方です。
死生観が違うということもありますし、個人主義だな、合理的だな、と感じることが
いつもより一層増えました。

正直、カルチャーショックはありますが、誰にも正解がわからない状況の中で、
感情的ではなく、きちんとした科学的根拠の元に判断し、
今ある情報をクリアーに提示している。
理にかなった対策や補償もきちんとしているので、他の国と比べるとストレスが少ないと思います

私は今回の「自由と責任は同時にやってくる」がテーマの原稿を読んだこともあり、
スウェーデンがなぜそのような対策を取るのか、腑に落ちるところがあります。

日本で当たり前のことは、海外ではありえなかったり、その逆もある。
海外での暮らしを知ることで、少し視野が開けたように感じます。
みなさんにとっても、自分の住む国のこれからについて、考える機会になればと願います。(担当:平田)

「ひきだし」がリニューアルしました

2020年06月03日

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「ひきだし」がリニューアルしました
(6号「てと、てと。」)

取材・文は渡辺尚子さん、写真は松本のりこさんのコンビで、
2014年から続けてきた連載「ひきだし」が、
このたびタイトルを変えて、新たなスタートを切りました。

暮らしのなかで、食事をするように、息を吸うように、
ものづくりをされている人の、
生活や生き方、思想などをご紹介する
ドキュメンタリーのページです。

新タイトルの「てと、てと。」(手と、手と。)は、
ものづくりのために大切な「手」に着目し、
ひとりの右手と左手、という意味や、
親子や夫婦のふたりの手、
手から手へつながっていくもの、
というような意味を込めて名づけました。

第一回の「手」は、
陶芸家の小方英理子さんの、やさしく、
そして力強い手。
母として、作家として
いつも何かを作っている手に出会いました。(担当:小林)

生きる喜びをくれるから

2020年06月02日

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生きる喜びをくれるから
(新連載「はじめてのお楽しみ」)

もう何年も前のことですが、料理家のホルトハウス房子先生からお電話をいただき、「あなた、お能はお好き?」と聞かれたことがありました。「お好き」と言うほどじゃありませんが、何度か観たことはあり、興味はあります。そうお答えすると、「用事で行けなくなってしまった公演があるから、もしよろしければ」と、チケットを2枚送ってくださいました。
休日に友人と連れたって能楽堂へ出かけると、なんと席は「かぶりつき」のまん真ん中で、まわりは着物すがたのご婦人方ばかり。なんだか恐縮しながらも、絢爛豪華な衣装の細部まで間近でじっくり眺め、およそ6時間、腰が痛くなりつつ堪能したのでした。
以来、ときどきテレビでお能の公演を目にすると、細部まで映るのはいいのですが、なぜだか非常に淡々としたものに感じてしまいます。演者の息づかい、衣擦れの音、観客が息をのむ一瞬……。たぶん、そうしたものが一体となって、「生」で伝わってくるから、夢中になれるんだな。生意気ですが、そう思ったりするのです。

前置きが長くなりましたが、このたび始まった新連載「はじめてのお楽しみ」は、そうしたライブならではのいろんな娯楽文化を、文筆家でイラストレーターの金井真紀さんが体験してまとめる読み物です。
大人になっても、ちゃんと体験したことがない、しかし機会があれば行ってみたい、そんな娯楽ってありませんか?
金井さんは、落語好きで俳句もたしなむ趣味人ですが、それでも体験したことのない娯楽はあるそうで、その一つが「浪曲」。えっ、浪曲とは?? と思わず検索したくらい、恥ずかしながら、私は無知でした。そしてYouTubeで少し聴いてみたものの、どこがいいのか、正直よくわからない。ちょっぴり不安を覚えつつ、金井さんと取材に出かけた先は、私が暮らす浅草にある「火曜亭」でした。
この日の公演は、いまをときめくスター浪曲師の玉川奈々福さんによるもの。平日の夜で、ざんざん降りなのにもかかわらず、会場は立ち見が出るほどの盛況ぶり。あんがい若い人も来てるんだなあ、ときょろきょろしているうちに、奈々福さんが登壇。そしてそして……。続きはぜひ、金井さんの軽妙な文章でお楽しみください。

なぜこの連載を始めたかと言えば、暮らしって家の中でおさまることだけじゃなく、非日常にわくわくと胸を躍らせ、磨き抜かれた芸にうっとりする、そんな「ハレ」の時間もあってこそメリハリがつくんじゃないかな……と思うからなのです。娯楽って、生きる喜びをくれる、大事なものなんじゃないかな、と。
赤の他人と同じ空間に集い、一緒に大笑いしたり涙したりして、感動を反芻しながら家路につく。いまは残念ながら「火曜亭」もお休みですが、あの素敵な一夜が、早く、早く、戻ってきてくれることを願います。(担当:北川)

花森安治選集 全3巻 第1巻『美しく着ることは、美しく暮すこと』を発売しました!

2020年06月01日

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とうとう、長く制作を進めてきた一冊が完成しました。
現在でも天才、奇才、昭和の名編集長と評され、
多くの人に愛されて続けている花森安治の選集を、この1巻からお届けします!

『暮しの手帖』初代編集長の花森は、敗戦後の復興から、
経済大国へと急成長を遂げた昭和の変遷を鋭く見つめ、
家庭のささやかな幸せに向けたまなざしから、国や大企業に臆することなく抗う叫びにいたるまで、ジャナーリストとして伝えた著作を膨大に遺しました。
この選集は、花森のジャーナリズムと思想をつまびらかにする作品群です。

ところで、4年前に放送されていた連続テレビ小説『とと姉ちゃん』をご覧になったことはありますか? 暮しの手帖社の創業期からのエピソードに想を得て作られたドラマです。
ヒロイン・小橋常子(演・高畑充希さん)の雑誌作りを助ける、
天才編集者・花山伊佐次(演・唐沢寿明さん)は、花森安治がモチーフでした。
ふたりは戦後すぐに出会い、少しでもみんなの暮らしを明るくしたいと、
試行錯誤しながらファッション誌を出版します。
この第1巻はちょうどその頃、花森が新進気鋭の服飾評論家として世に登場した、
『暮しの手帖』創刊前後の作品に焦点を当てています。

1946年に出版社「衣裳研究所」を設立し、
まだ物が極端にない中で提案したことは、まず「着るもの」についてでした。
「食」や「住」の材料は庶民には思うように手に入らないけれど、
「衣」だけは、昔からの着物をタンスの中に持っている人も多い、と考えたためでした。

洋裁の知識やミシンがなくても、和服地で簡単に作れる「直線裁ちの服」を考案し、
知恵と工夫次第で、あなたはもっと美しくなれると読者に呼びかけました。
また、「着るもの」を通して「ほんとうのおしゃれ」とは何かを説き、
それまでもんぺ姿を強いられていた女性たちのおしゃれ心に、灯をともしたのです。

洋装の入門書、手引きとして愛された貴重な原稿にはじまり、
次第に洋装が庶民に広がってくる頃になると、
「必要なのは感覚であって、お金ではない。美しく着ることと、お金とは、何のかかわりもないのである。しいて関係をみつけるとすれば、美しく着るということは、なるたけお金を見せびらかさないこと、そういう意味になるだろう。……」
「いまの日本で着ものの世界を見ていると、ことに女の服では、ファッションとかアラ・モードとかニュールックとか、そうした流行だけが問題になっている。まるで「流行」だけしかないように見えるのである。
 流行がいけないというのではない、流行は、いわば着ものという木に咲いた花である。根もあれば幹もあり、枝も葉もあって、はじめて、立派に花が咲くのである。……」
と、ユーモアたっぷりのエッセイでおしゃれの本質を論じました。

昭和から平成、令和と時代を経ても決して色褪せない、今だからこそ見つめ直したい、
花森の「美学」がたっぷりと詰まった一冊となっています。
函入り、上製とした美しい本の仕様は、ぜひ書店でお手に取ってご覧ください。
もちろん本の装画は、花森安治によるものです。(担当:村上)

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庖丁の音、美味しい音

2020年06月01日

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庖丁の音、美味しい音
(6号「庖丁仕事はリズムにのって」)

毎日のごはん作り。
材料を並べて作業に入る前に、想像力をふくらませて、
どんなふうに食べたいかな? と、出来上がりをイメージしてみて下さい。
食感は、シャキッと? ふわふわ? 
美味しいイメージが浮かんだら、さあ、料理に取りかかりましょう。

今回は、料理家の渡辺麻紀先生に、庖丁の持ち方や姿勢から、
野菜の切り方、鶏肉の脂肪の取り方のコツまで、
基本だけれど意外と知らない大切なことを教えていただきました。

取材はまず、庖丁研ぎからスタート。
渡辺先生が「不思議と心が落ち着く」とおっしゃるように、
研いでいるときは無心になり、気持ちがすーっと整ってきます。
なんだか瞑想の時間のようで、習慣にしたいな、と思いました。
(研いだばかりの庖丁は金気が食材に移りやすいので、一晩寝かしてから使うといいですよ)

ご紹介しているレシピは、どれも簡単でおいしいものばかりですが、
なかでも、私のおすすめは、「豚の冷しゃぶ コンカッセソースがけ」。
トマトと玉ねぎ、パセリ、レモン、その美しい色合いの野菜がオリーブオイルでキラキラと輝いたソースを、豚肉にたっぷりかけた一皿です。
撮影の時も、「わぁ、美しい〜! ごちそうだね!」と歓声が上がりました。
手軽に作れるので、この度の在宅勤務の間、お昼ごはんに何度も作っていましたが、
その度に「きれいだなぁ!」と、元気が出るのを感じました。

「キッチンでは、自信を持って、たのしく過ごしてほしい」と渡辺先生。
私は今回の企画で、庖丁が頼もしい相棒のような存在に変わりました。
ぜひ、あなたに合った庖丁使いの姿勢を見つけてみて下さい。(担当:佐藤)

生き物は手がかかるからこそ愛おしい

2020年05月29日

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生き物は手がかかるからこそ愛おしい
(6号「わたしの手帖/中村桂子さん 生きることは、時間を紡ぐこと」)

様々な方の「人生の手帖」に書きつけてある言葉をご紹介する、この企画。
今号は、科学者の中村桂子さんにお話を伺いました。

DNA研究の第一人者として長年活躍されてきた中村さん。
科学者というと、どこか遠い存在のようで、お会いする前は緊張していましたが、
取材当日は、チャーミングな笑顔で出迎えてくださいました。
好奇心旺盛で、「この間、こういうことがあってびっくりしたの!」と話題が絶えず、
丘陵を生かして造られた庭を足取り軽く昇り降りする姿は、とても84歳には思えません。

中村さんは50歳の時、「生命誌」という研究分野を生み出し、
一貫して「人間は自然の一部」ということを発信してきました。
何を当たり前のことを、と思うかもしれません。
けれど、中村さんのお話を聞くうちに、
便利な生活に身を置くことで、つい人間本位の考えをしてしまっている自分に気づきました。
「今の社会が求めていることは、手がかからず、思い通りに、早く。
でも、本来生き物はその真反対。
手がかかるからこそ愛おしいし、生きることに“早い”は合わないの」
そんな中村さんの言葉に、耳を傾けてみませんか。(担当:平田)

料理家と八百屋のちょっといい関係

2020年05月28日

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料理家と八百屋のちょっといい関係
(6号「理想の八百屋さんと出会ったら」)

色とりどりの夏野菜が市場に並びはじめました。
その美しい姿を見ていると、
さて、どう料理しようかな、とワクワクしてきます。

この記事に登場するのは、野菜をこよなく愛する3人です。

素材のおいしさをそのままに生かして、
独創的なひと皿を作る、料理家の竹花いち子さん、
そして、オーガニックや自然栽培の野菜を扱う、
「タネカら商店」という八百屋さんを営む
滝田俊輔さんと十河知子さんです。

竹花さんは、タネカら商店さんとの出会いが、
「ここ最近で一番嬉しかったこと」と話します。
大切に梱包され、段ボールに詰められた野菜と
そこに添えられたタネカらさんからのメッセージ。
徐々に交流を重ね、やがては、
腕をふるった野菜料理を2人にもてなすようになります。

そんな大好きな八百屋さんとのちょっといい関係を、
元コピーライターの竹花さんに、綴っていただきました。
(竹花さんの軽快で面白いエッセイは、2号の「随筆」でも読むことができますよ)

タネカら商店さんのおいしい野菜を使った、
グリーンライスサラダ、東南アジア風カレーの
レシピも教えていただきました。
暑くなると食べたくなるという、竹花さんいちおしの2皿です。(担当:小林)

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干物は便利!

2020年05月27日

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干物は便利!
(6号「干物をいろんな食べ方で」)

外出自粛が続きますね。
食事係のみなさん、日々本当におつかれさまです。
私は、献立を考えるときは、「鶏もも肉があるから、から揚げにしようかな」といった具合に、家にあるたんぱく質から発想することが多いのですが、買う食材がいつも似たりよったりなので、同じような料理になりがち。
魚のメニューを増やしたくても、肉に比べて割高、しかも日持ちがしないので、スーパーでなかなか手が伸びません。そこで、焼くだけでおかずになる干物を買ってみるのですが、しだいに飽きて、3枚パックのうちの1枚がいつまでも冷凍庫に残っていたり。
そんな我が家の冷凍庫を覗きこみながら、「この干物を料理に使うことはできないだろうか?」と思ったのが、この企画のはじまりでした。
「生粋の魚好きの方に、ふだんから作っているメニューを教わりたい」と考え、ご登場いただくことになったのはこのお二人。
田口成子さんは「おさかなマイスター」の資格を持つ料理研究家で、干物のうま味と塩気で野菜がたっぷり食べられる、家庭的なメニューを教えてくださいました。
なかでも今の時季おすすめなのは、「アジの干物の冷や汁風そうめん」。自宅で試作したとき、あまりのおいしさに私一人で二人前を平らげてしまった逸品です(笑)。一皿でバランスよく栄養が取れるので、ランチにもぴったりです。
そしてもうお一人は、お酒が大好きで、干物を使ったつまみもよく作るというツレヅレハナコさん。
驚きだったのは、焼いた干物にディルをのせて食べる料理。さわやかな香りが、干物に本当によく合うんです。
「他の香味野菜も干物にのせてみてください、おいしいですよ」というツレヅレさんのアドバイス通り、長ねぎ、みょうが、青じそなどを刻んでのせてみましたが、なるほど! 干物にフレッシュさが加わって、新しいおいしさ。これを知ってから、昨晩焼いて残った干物を食べるときも、ウキウキするようになりました。
「食卓に新鮮さが欲しいな」と思っている方は、ぜひお試しください。(担当:田島)

当事者の人も、そうでない人も

2020年05月26日

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当事者の人も、そうでない人も
(6号「等身大の介護」)

もしも、親が認知症になったら……。
夫が体調を崩し、介助が必要な状況になったら……。
時折そんなことを思い浮かべながらも、
「介護」と向き合うことがなんとなく怖いという気持ちがあり、
考えることを先延ばしにしてきた自分がいました。

そんな、なんとなく怖いという思いを払拭してくれたのが、
「自分がお世話をしているようで、実は相手からたくさんのものをもらっている」という、
この記事の執筆者の一条道さんの言葉です。

一条さんがお母さんのお世話をするようになったのは、
5年前の35歳の時のこと。
最愛の父親が亡くなり、自分が母親の介護全般を担うことになった時、
一条さんはなかなかその現実を受け入れられなかったといいます。

そんななか、どのようにして介護と向き合ってきたのか……。
この特集では、一条さんに自身の介護生活を振り返っていただくとともに、
それぞれのかたちを模索しながら介護と向き合う、2組の家族を訪ねました。

取材に伺ったのは、新型コロナウイルスの感染が拡大する前でしたが、
その後、感染が広がるに伴い、
介護の現場にも深刻な影響が及んでいます。

一条さんも、今はお母さんがデイサービスに行く回数を週1回に減らし、
在宅勤務をしながら介護をしているそうです。
「自宅でオンラインの会議がある時は、ヘルパーさんに来てもらっています。
この状況のなか、母もストレスが溜まってきて、
表情が険しくなったり、口調が激しくなることが増えましたが、
何かあっても気にしない、注意しない……。
おおらかな気持ちを持つように努めたいなと思っています」と話してくれました。

どんな状況になっても、目の前の人と向き合い、見守っていく。
一条さんをはじめ、取材を受けてくださった2組の家族の姿からは、
当事者の人も、そうでない人も、
得られる気づきがたくさんあると思います。
(担当:井田)

食を、暮らしを、自分の手の中に。

2020年05月25日

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食を、暮らしを、自分の手の中に。
(6号「有元葉子の旬菜」)

料理家の有元葉子さんの新連載が始まりました。1年間6回の短期掲載です。
その季節ならではの食材を生かした、シンプルな料理をご紹介します。
第一回は、初夏の時季にしか味わえない新にんにくや新れんこん、新ごぼう、そしてぬか漬けのお話です。有元さんのふだんの食卓や、子どもの頃の食のエピソードを交えて、それぞれの料理をご紹介します。
まさに今が旬という食材の料理ですから、実は去年のちょうど今ごろ撮影をして原稿を書いた記事で、足かけ1年でお届けする頁です。
この連載のきっかけは、こんなことからでした。
あるとき、有元さんの撮影のあとに試食をしながら、皆でこんなことを話したのです。

「今は、スーパーに行けば、お惣菜、インスタント食品、『料理の素』や合わせ調味料……実に多種多様で便利なものがあふれている。でも、その多くは気が利きすぎていないだろうか」「人それぞれに『おいしい』という好みの感覚は違うはずなのに。家庭ごとの『うちの味』もなくなりそう」と。

忙しい毎日のなかでは、便利な食材を活用することも必要です。
でも、そればかりだとどうなるしょうか。
「すべて手作りしましょう」という話ではありません。家庭料理って、手間をかければよいというものではありませんから。でも、メーカーが作る商品はあくまでも「商品」です。それは、食べる人の身体や健康のことを第一に考えて作られたものとは限りません。
工場で一度に大量に作られたものと、家庭で自分や家族のために作るものは、違うのです。
有元さんは、「私は、納得して安心できる、おいしいものをきちんと選びたい」とおっしゃいます。素材をきちんと選ぶのは、安心のため、自分が納得するおいしさのため。そして、有元さんのふだんの食卓には、そんな素材を生かしたシンプルな料理が並びます。

いま私たちは、未曾有の経験をしています。
一時期、スーパーの棚から、インスタントやレトルト食品が、真っ先になくなりました。
そんなときでも、シンプルに素材を料理する力があれば、そうそう困らないはずです。たとえば、ぬか床があれば、それだけでもずいぶん豊かな食卓になるのです。
しっかりと自分の手で食べるには、生きるには、どんなことを感じて手を動かせばいいか。そのヒントになる有元さんのお話と料理をお伝えします。(担当:宇津木)

たとえ、ままならない日々でも

2020年05月23日

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たとえ、ままならない日々でも
――編集長より、最新号発売のご挨拶

青葉がいきいきと、生命力いっぱいに目に映る季節です。お元気でお過ごしですか? きっと、それぞれの立場でいろんな不便や苦労に向き合い、折り合いをつけながらの日々ではないかな、と想像しています。
私たち編集部は、3月下旬あたりから段階的に在宅勤務態勢に入り、6号は校正作業をメールなどでやり取りして進め、たがいにほとんど顔を合わさずに校了しました。こんなことは初めてです。
振り返って思うのは、確かに困難はあったけれども、手抜きはなかったな、ということ。いつもと変わらずに、いや、いつも以上にしつこく、あきらめ悪く、みなでギリギリまで推敲してつくりあげた号です。
どうか、みなさんのお手元に無事に届きますように。気分がふさぎがちな、苦しみの多い日々のなか、この一冊が少しでも役立つことができますように。そう胸の内で唱えて、朝昼晩と切れ目なく校正紙に向き合っていた気がします。

私自身は、在宅勤務のこの2カ月ばかり、気持ちが落ち込むことが何度かありました。6号のつくり込みがしんどかったこともありますが、次の7号で準備していた取材撮影をいくつも中止せざるを得なくなり、一冊の設計図をかなり変えなければならなくなったからです。
本来なら、「やりたいこと、やるべきこと」から企画を考えるべきなのに、「この状況下でもなんとかできること」から考え始めなければならない不自由さ、不自然さ。しかし当然ですが、埋め草的な記事はつくりたくない。さあ、どうしよう。どうしたらいいだろう。めずらしく、追い詰められました。
でも、ある晩、疲れ切って寝床に入ったときに、ふと思ったのです。自分はこれまでそんなに、順風満帆で、欠けることのない人生を送ってきただろうか。そんなわけがない。じゃあ、ここで一つ二つ、道をとざされたくらいで、何かが大きく損なわれたような気分になるのは、まったく甘いんじゃないかな、と。
みなさんは、ある日突然に「暮らし」が足元からぐらりと揺らぎ、途方に暮れたことはあるでしょうか。私は一度だけあります。もう遠い昔、大学に進学する前年のことですが、父親が病に倒れ、たった2カ月半ばかりの闘病の末に亡くなったのです。人生の短さに、自分の暮らしの弱さに、目がくらむようでした。思うような道に進めたのは、手を差しのべてくれる人がいて、また、いくつかの幸運が重なった、ただそれだけのことです。
いま、仕事を失って困窮したり、店を開けられずに負債を抱えたり、アルバイトができずに学業をあきらめざるを得ないなど、心底困り、途方に暮れている人たちがいます。他人事じゃない、と思うのです。全員が、区別されることなく、一刻も早く救われてほしい。携わる仕事によって、「役に立つ」「役に立たない」と、人を区別しないでほしい。たとえ自分も苦しく、助けるだけのゆとりは持てなかったとしても、人の暮らしを思いやる想像力を失いたくない。そう思います。

ここでは、もっと希望の持てるような明るくて前向きな話題、暮らしに役立つようなことを綴れたら、と思って何度かトライしたのですが、ごめんなさい、力不足で、まとまらない話になりました。
このところ、なぜかしきりに胸に浮かぶ詩があります。茨木のり子さんの「自分の感受性くらい」。あまりに有名な詩ですから、ごく一部だけ引用します。

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
(中略)
初心消えかかるのを
暮しのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
 
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ

たとえままならない状況下でも、雑誌をつくり、受け止めてくれる人がいる、それはなんて幸せなことだろうと感じます。『暮しの手帖』はそもそも、終戦から間もないまだ貧しい時代に、人びとが新しい暮らしの価値観を模索するなかに生まれた雑誌です。弱い立場から懸命に声を上げて、ささやかだけれど、かけがえのない暮らしのために知恵と工夫を紡いでいく。そんな自分たちの出自を忘れずにやっていけたらと思います。
悩みや苦しみは深くても、そこから何かをつかめることを信じて。どうか、心身すこやかにお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

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校了を目前とした4月下旬頃、同僚の上野さんから届いた、手づくりのガーゼマスク。つけると気持ちが明るくなります。

やさしさに包まれます

2020年04月14日

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やさしさに包まれます
(5号「ハンドマッサージを身につけよう」)

突然ですが、マッサージはお好きですか?
私は「特別なところで受けるもの」
というイメージがあって、あまり馴染みがありません。
街中でマッサージ屋さんを見かけても、
「いいなあ」と思いながらも素通りしています。

今回ご紹介するハンドマッサージは、
いつでも・どこでも・誰にでもできる、とても身近な技です。
教えてくださったのは、アロマセラピストの森聖子さん。
森さん自身、都内のサロンに勤務するかたわら、ボランティアとして
いろんな人の手に触れてきました。
まずは編集部で実践してもらい、その様子を取材しました。
大切なのは技術云々ではなく、手の感触にあるのだそう。
「難しいことは考えず、まずは触れてみることから」と森さんはおっしゃいます。
実際に私も受けてみましたが、森さんの手は本当に柔らかく、温かいのです。
両手で20分、心が満たされて、幸せな気持ちでいっぱいになりました。
誌面では、そんなハンドマッサージのコツや手順を丁寧に紹介しています。

この記事をつくっていたときは想像もつかなかったことですが、
いま、新型コロナウイルスが流行しています。
ハンドマッサージをする際は、手洗いやアルコール消毒を心がけていただけたら幸いです。
(担当:中村)


暮しの手帖社 今日の編集部