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ケヤキを見上げ、平和の尊さを想う

2023年08月09日

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ケヤキを見上げ、平和の尊さを想う
(25号「表参道・山の手大空襲を語り継ぐ」)

学生のころ、美しくて自由な空気を感じる表参道にひかれて、この街でアルバイトをし、毎日のように通っていました。初めて就職した会社も表参道沿いにあり、長い時間を過ごした私は、この街に育ててもらったように感じています。

ファッションやアートなど文化の発信地でもあり、多くの方にとって楽しく華やかな街のイメージ。
そんな、ケヤキ並木の美しい表参道が、1945年5月、B29による大空襲によって火の海となったことをご存じでしょうか。
この空襲は「山の手大空襲」と呼ばれました。多くの尊い命が失われ、201本あったケヤキは13本を残してすべて焼失したといわれています。
いま、1本1本のケヤキを見ながら通りを歩くと、表参道ヒルズの近くや原宿方面に、幹の太い大木がいくつかあることに気づくかと思います。それは、空襲で焼け残り、歴史を見てきた貴重なケヤキなのです。

二度と戦争を起こしてはいけないということ、そして平和の尊さについて、改めて読者の方と一緒に考えたいと願い、当時この地に住んでおられた3人の方と、老舗の「山陽堂書店」店主にお話を伺いました。つらい思いを乗り越えて語られたことばをここに残します。記事を読んでくださったら、あなたの気持ち、考えを、どうか周りの人に話してみてください。胸のつぶれるような惨事を風化させないためには、まずは知ることから始まると思うのです。(担当:佐藤)

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今回の記事のきっかけになった本。山陽堂書店の遠山秀子さんに教えていただきました。
私自身、表参道の空襲について知人から聞いたことはありましたが、これほどの惨事があったことに驚き、涙なくしては読めませんでした。一人でも多くの方に読んでいただきたいと思います。
『表参道が燃えた日 ―山の手大空襲の体験記―[増補版]』
『続 表参道が燃えた日 ―山の手大空襲の体験記―』
(ともに、「表参道が燃えた日」編集委員会編集・刊行)
こちらの2冊は一般書店では流通していませんが、山陽堂書店(03-3401-1309)にてご注文いただけます。

植物をじょうずに育てるには

2023年08月08日

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植物をじょうずに育てるには
(25号「黒田益朗さんのベランダ庭園」)

我が家は賃貸マンション。ベランダのドアを開けると、少し憂鬱な気分になります。なぜなら、枯らしてしまった観葉植物の残骸や空いた植木鉢が、いくつも転がっているからです。緑は好きなのに、なぜかうまく育てられない。はっと気づくと植物の元気がなくなっており、手をこまねいているうちに、手遅れになってしまう。こんな失敗を山ほどしてきました。みなさんはいかがでしょうか?

デザイナーの黒田益朗(くろだ・ますお)さんは、類まれなるグリーン・フィンガーズの持ち主。自宅マンションのベランダにいくつもの鉢植えを配置して、それは見事な庭園を作り上げています。「ベランダでここまでできるんだ!」黒田さんの庭園を見れば、誰もがそう思うはず。

そんな黒田さんに、植物への思いと、向き合い方を伺いました。植物を育てるうえで必要なものは、難しい知識や特別な道具などではなかったのだ……。お話には、そんな発見が満ちていました。美しい庭園の写真もたっぷりと掲載、図解もしています。ぜひ、庭作りの参考になさってください。(担当:島崎)

食べて体をととのえる

2023年08月07日

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食べて体をととのえる
(25号「夏の養生ごはんの知恵」)

夏、真っ盛り。今年は梅雨明け前から猛暑日が続いていましたから、すでにぐったり……という方も多いのではないでしょうか。
暑い日が続くと、食欲が出ない、疲れが取れない、冷房で体が冷えるなど、さまざまな不調が起こりやすくなります。そんな不調を、日々の食事で少しでもやわらげ、体をととのえることができたらと思い、この記事をつくりました。

ご指導いただいたのは、昔ながらの食養生の知恵と薬膳の知識を料理教室などで教えている、料理家の山田奈美さん。
山田さんがふだんの暮らしで実践していることは、どれも気軽にできることばかりです。
例えば、「旬の野菜を食べる」「野菜をすりおろして消化をよくする」など。
そうしたコツも取り入れながら、炒めものから蒸し料理、煮ものまで、不調ごとにおすすめの食材を使った料理を紹介しています。

“夏暑く、冬寒い”盆地育ちで、比較的暑さに強いつもりの私も、ここ数日体がどんより重く、頭がぼーっとしていたため、誌面の中から「なすとズッキーニのマリネ」を作りました。酢には食欲増進効果があり、なすとズッキーニは体の熱を取る食材。すっきり味のマリネはどんな献立にも合いますし、体がシャキッとしますよ。
不調の種類からおすすめの料理を探してもよし、パラパラめくって気になる料理を試してもよし。この夏の食事づくりに、ぜひお役立てください。(担当:田村)

家でも外でも。夏のお守り

2023年08月04日

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家でも外でも。夏のお守り
(25号「かたわらにマーガレット」)

連日、ものすごい暑さですね。みなさま、体調を崩されていませんか? この時季は、外の暑さとは対照的に、室内では冷房が効いていて、体が冷えてしまいがち。そんな時に活躍するのが、今号でご紹介する「マーガレット」です。
今回指導してくださったテラニシケイコさんは、このボレロに似た服「マーガレット」を長年改良を重ねながら作り続けてきました。ストールのように羽織ることもできますし、首に巻いたり、いろいろな着こなしが楽しめるのもうれしいところ。年齢を問わず、どなたも好んで着てくださるそうです。
わたしも作ってみたところ、すべて直線裁ちで、裁つパーツは3つ、3時間ほどで完成する気軽さにも魅力を感じました。「カディ」という、手紡ぎで手織りのインドのコットンで作ってみたのですが、とっても軽くてやわらかく、体にフィットします。
誌面では、モデルの市川実和子さんが、4種の布で作ったものをすてきに着こなしてくださいました。色や素材など、布選びの参考にしてみてください。
冷房の冷え対策の他に、日よけにもなるので、家にいるときも、出かけるときも、お守りのように身近に置いています。素材を変えて作ると秋冬にも活躍するので、ぜひお好みの布で作ってみてくださいね。(担当:平田)

おいしいから続いて、台所もすっきり

2023年08月03日

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おいしいから続いて、台所もすっきり
(25号「始末料理の手帖」)

食材の捨ててしまいがちな部分や、半端な余りを使った料理、と聞くと、節約料理のようでなんだかわびしい……と感じるでしょうか。本企画では、そんな食材をじょうずにいただく、いわば「始末の料理」をご紹介します。
料理家は仕事で使った食材が余りがちですが、無理なく食べきるにはどんな実践があるのでしょう。本田明子さん、飛田和緒さん、按田優子さんに、日ごろの工夫や料理レシピを教えていただきました。

みなさん一様におっしゃっていたのは、「始末(料理)と思って作っていない」ということ。おいしくて、あると嬉しいし、作るのも楽しい、そんな料理だからと話します。

一部をご紹介すると、本田さんには大根やにんじんの皮を使った「きんぴら」、かぶの葉の「煮びたし」、かんきつ類の皮1~2コ分で作れる「マーマレード」。
飛田さんには長ねぎの青い部分を使った「ねぎみそ」、卵白を使った「ホワイトオムレツ」、かたくなったパンを使った「トマト粥」。
按田さんには、余り野菜の「酢漬け」とその展開料理を2品、そしてどんな野菜を入れてもいいという「スープ」を教わりました。

試作してみると、これは確かに進んで作りたくなる、納得のおいしさです。
また気持ちがよかったのが、試作のために買い求めた丸ごとの野菜を、ほとんど食べきれたこと。ひとり暮らしでは傷ませてしまうだろうと、野菜を丸ごと買う機会が少なかったのですが、食べきれると分かれば自信がつきますし、廃棄も減って経済的です。

始末料理の習慣は、無理をしても続かないもの。まずは「自分に合いそうだな」と思うものからお試しください。おいしくて、続けられそうなら続けて、自分にあったやり方を探ってみていただけたらと思います。(担当:佐々木)

まるでキャンバスを彩るように

2023年08月02日

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まるでキャンバスを彩るように
(25号「画家たちの花の庭」)

共に画家として活躍する佐藤翠(みどり)さんと守山友一朗さんの東京郊外のご自宅を訪ねたのは、5月上旬のこと。高台の一軒家には庭があり、ビオラやチューリップ、ヒューケラやクレマチス、バラなどが鮮やかな花を咲かせていました。小さな庭ながら色彩の美しさが強く印象に残ったのは、まるでキャンバスを彩るかのように、お二人が草花を植えているからなのでしょう。

窓辺には庭で摘んだ花が飾られ、天気がいい日は筆を置いて、庭でお茶を楽しむ。そんな日常からは、ささやかなことにも美しさと豊かさを見出すお二人の眼差しが感じられます。

園芸の知識はほとんどなかったけれど、いまや、「自分たちの制作にとって、庭の存在がとても大切」だと話す、佐藤さんと守山さん。そんなお二人の創作と庭とのかかわりが感じられる暮らしを、川島小鳥さんの写真とともにお届けします。(担当:井田)

涼しい部屋で、読書はいかが?

2023年08月01日

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涼しい部屋で、読書はいかが?
(25号「いま読みたい海外文学 柴田元幸さん×斎藤真理子さん」)

突然ですが、みなさん、本は読んでいますか? 最後に、昼も夜もなく夢中で読書をしたのは、いつでしょうか? 大人になるとなかなか時間を取れず、本を読んでも仕事の関係のものばかり。そんな人は少なくないのではないでしょうか(情けないかな、かく言う私もそのひとり……)。

本企画は、日本における翻訳英米文学の第一人者・柴田元幸さんと、日韓でベストセラーとなった『82年生まれ、キム・ジヨン』ほか、数多くの韓国文学の翻訳を手掛ける斎藤真理子さんにご対談いただき、「いま読みたい」海外の小説を教わる企画。
コロナ禍や格差など現代の世相について考えさせられる作品、戦後生まれの作家だからこそ書けた戦争小説、いまの視点で読むと新鮮な感慨をもたらしてくれる古典作品などなど。ロシア文学からチベット文学まで、選りすぐりの11作品について語っていただきました。

本を閉じ、顔を上げると、世界がなんだか違って見える。この夏、そんなすてきな読書体験をどうぞ。(担当:島崎)

「簡単でおいしい」と驚きます

2023年07月31日

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「簡単でおいしい」と驚きます
(25号「米粉って便利です」)

このところ、米粉の製品をよく目にするようになりました。
スーパーでも米粉製のの餃子の皮などを販売していたり、米粉の需要が高まっていることを感じます。
小麦アレルギーのために代替で使う方も多いと思いますが、「米粉がおいしいから」という理由で、どんな方も日常で使えたらと思い、この企画を考えました。

お菓子やパン作りにはコツが必要な米粉も、料理ならもっと気軽に使えるかもしれない。料理研究家・かのうかおりさんにご相談したところ、「うちでは毎日米粉を使っていて、米粉なしの生活はもう考えられません」とのお返事をいただきました。
3人のお子さんを育てているかのうさんは、15年ほど前、子どもの食物アレルギーから米粉と向き合う日々が始まりました。普段食べられない揚げものや粉ものを食べさせてあげたいと、失敗を繰り返しながら作り続けてきたそうです。その経験から得た「かのうさんの米粉メモ」は必見です。

今回は、天ぷらや春巻き、チヂミにスープなど、米粉を使った家庭料理7品を教えていただきました。中でもおすすめなのは、米粉と牛乳で作るチキングラタン。チーズ好きの子どもたちが、こんがりパリパリのチーズの部分の取り合いになることから、オーブンの天板にそのまま広くうすく作るようになったという大胆な一品で、大家族の方や、パーティーなどにもおすすめです。さっぱり軽く、ペロリと食べられますよ。

米粉の特長として、生地はもっちり食感に。汁もののトロミづにけも、ダマになりにくく簡単に使えます。片栗粉よりやさしいトロミで、ほっとする味わいです。

どれか1品をを一度作っていただくと、きっと「簡単でおいしい」を実感していただけると思います。米粉を身近なものとして、普段使いしていただくきっかけになればうれしいです。(担当:小林)

小さなはぎれが、道具に生まれ変わります

2023年07月28日

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小さなはぎれが、道具に生まれ変わります
(25号「ひとつだけの鍋つかみ」)

友人の家で、晩ごはんをごちそうになった時のことです。オーブンから天板を取り出すのに彼女が使っていた鍋つかみに、思わず目がくぎづけになりました。

使いこまれて、風合いが出た鍋つかみ。「omoto」という屋号で活動している鈴木智子さんが作ったものだということ、はぎれを縫い合わせているため、同じものはふたつとないことなどを聞き、作り方を教えていただきたいと思ったことが、この企画の始まりでした。

取材で訪れた鈴木さんのアトリエには、カーブがついていたり、三角だったり、大小さまざまなはぎれが入った箱がたくさんありました。その中からはぎれを一枚、また一枚と手に取り、縫い合わせていく様子は、まるでコラージュを施しているかのよう。

後日、私も棚の奥にしまいこんでいたはぎれを取り出し、鍋つかみを作ってみました。もう何にも使えないかなと感じていた小さな小さなはぎれでさえ材料の一部となり、それが再び道具に生まれ変わる。それは、新しい布で何かを作るのとはまた異なる喜びでした。
もしも、あなたの家にもはぎれがあったなら、ほかにはない、ひとつだけの鍋つかみを作ってみませんか。(担当:井田)

50年前に作られたカードをめぐる、母と息子の物語

2023年07月27日

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50年前に作られたカードをめぐる、母と息子の物語
(25号「お母さんのお弁当ふろく」)

まずはこの写真をご覧ください。手作りのかわいらしいカードの数々。「昭和」を感じる懐かしいテイストです。一体、何だと思いますか?
これらは今から50年ほど前、現代詩人で、細胞生物学者でもある田中庸介さんのお母さんが、庸介さんに持たせる幼稚園のお弁当のおまけとして作っていたもので、その名も「お弁当ふろく」。「架空の店のお品書き」という設定で、その日のお弁当の献立が書かれ、2年間で157個も作られました。
庸介さんの母・美子さんは1933年、長崎で生まれ、出版社の装幀室に勤めました。その手腕をいかして作ったお弁当ふろくは、凝った仕掛けが特長。とぼけた表情のモグラが飛び出してきたり、豆本仕立てになっていたり、ポストの中に小さな手紙が入っていたり……。実物を手にすると、写真で見る以上にその工夫が感じられて、見飽きません。一つひとつを見ていたら、あっという間に日が暮れていました。
美子さんはどうして、お弁当ふろくを作り続けたのでしょうか? 美子さんはすでにお亡くなりになっているので、残された日記が、その謎を解くヒントになりました。膨大な数の日記を読んでいると、まるで美子さんと対話しているような気持ちになり、身近な存在に思えてくるから不思議です。やがて、美子さんがお弁当ふろくを作った動機や、そこに込められた思いが浮かび上がってきました。それは、庸介さんも驚く母の姿でした。
この8月、美子さんの「お弁当ふろく」と装幀の仕事が、東京の2つのギャラリーで展示されることになりました。実物をご覧いただける貴重な機会です。ぜひ足をお運びください。(担当:平田)

◎「美子さんのお弁当ふろく展」 8月18~28日(会期中休みあり)
ギャラリーカドッコ(東京都杉並区西荻北3-8-9 TEL:03-6913-7626)

◎「美子さんの装幀のしごと」 8月18~20、25~27日
Gallery装丁夜話(東京都渋谷区神宮前1-2-9 原宿木多マンション103 TEL:03-3405-8983)

詳しくは、https://www.instagram.com/obentoufuroku/をご覧ください。

5カ国を旅する気分で

2023年07月26日

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5カ国を旅する気分で
(25号「拝啓、サラダ国より」)

うだるような暑さのなか、台所に立つのがいつもより億劫に感じませんか。
でも、どうせ料理するなら、この時季らしいメニューを楽しみたいですし、あわよくば夏休み気分も味わえるようなひと皿を作りたい。そんなとき、この特集がおすすめです。
5カ国の料理人に、とっておきのサラダを教えてもらう企画です。ご指導くださったのは、田中郷介さん(フランス料理/haru)、ナイル善己さん(インド料理/ナイルレストラン)、小川歩美さん(モロッコ料理)、森山光司さん(メキシコ料理/サルシータ)、アベクミコさん(タイ料理/DDD)です。
一品目は、田中さんが料理修業中に滞在したニースで出合った、「ホタテとグレープフルーツのサラダ」。ホタテの甘味、グレープフルーツの酸味がひとつになり、なんとも夏らしいさっぱりしたサラダです。粒マスタードとディルの香りがおいしさを引き立たせています。
そのほか、スパイスを効かせた夏野菜のサラダや、クスクス、ボリュームのあるステーキ肉、南国のハーブが香る揚げ魚のサラダなど、どのレシピも個性豊かです。
異国情緒あふれるサラダをぜひご自宅でお楽しみください。(担当:中村)

ひとって可愛い

2023年07月25日

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ひとって可愛い
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
早いもので、今日は最新号の発売日。私は焦りながらこの原稿に向かっています。どうしてこう、なんでもギリギリにやるのかなあ……と自分にツッコミを入れ、いや、子どもの頃からそうだったじゃないかと、夏休みの読書感想文を思い出したりします。ああ。
仕事や家庭でいろんなことがあり、なんだかくさくさするなあ、というとき。または、ちょっと「人間疲れ」しちゃったなあというとき。みなさんは、どんなふうに気分転換をされますか?
私は「寄席」に行きます。寄席って何? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、むかし東京にはそちこちにあったという、演芸専門の小屋です。落語をはじめ、漫才、マジック、紙切り、ジャグリング……と、さまざまな芸人さんたちが入れ代わり立ち代わり舞台に現れては、10~15分くらいの芸を披露して、さっと退く。
編集部のある神田と、浅草の住まいのあいだには、「鈴本演芸場」(上野)と「浅草演芸ホール」という二つの寄席があります。仕事でちょっと気分が落ち込むと、帰りにふらっと立ち寄って(寄席はどのタイミングでも入れます)、2時間ばかりアハハと笑う。すると、あら不思議、温泉に入ったあとのように心身がぽかぽかとくつろぐんですよ。
巻頭記事「わたしの手帖」には、そんな寄席でおなじみの落語家、春風亭一之輔さんにご登場いただきました。落語好きじゃない方も、〈『笑点』の新メンバー〉といえば、きっとお顔が浮かぶことでしょう。

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さて、落語家が本編に入る前に場を温めるような話をする、それを「まくら」と呼びまして、身辺雑記的な話をしたり、政治家や芸能人の不祥事をちくっと皮肉ったりするのが定番でしょうか。これが誉め言葉になるのかどうか、私は以前から、一之輔さんがまくらで語る「家族の話」が好きでした。
クールで、歯に衣着せぬ物言いがじつに爽快な夫人。きっと賢い子なのだろうなあと想像する、人間観察に優れた発言をする3人の子どもたち。一人ひとりの個が立っていて、だから身内の話をしても客はしらけず、おおいに笑える。考えてみれば、落語って、人のヘンで可笑しみを誘うところ、情けない失敗談、どうにも治せない悪い癖等々がもとになっているわけで、ちゃんと「人」を見ていなければできない話芸なのかもしれません。
そんなことを考えつつ臨んだ取材ですが、はたして一之輔さんは、人を見る目に優れた方でした。けれども、けっして突き放してはいなくて、どこかあったかい。タイトルの「ひとって可愛い」は、「ほら、偉い人って隙があって『可愛い』じゃないですか」という一之輔さんの言葉からとっています。
他人の弱点や失敗がどうにも許せないとか、そういう自分がイヤになってしまうとか、私たちは生きるなかで日々いろいろありますよね。そんなとき、自分の状況や心理も含めて、ちょっと引いたところから眺めてみる。今日は今日、あしたはあしたの風が吹くと考えて、しくじっても、あんまりクヨクヨしない。落語には、そんなふうに促してくれる不思議な力があるような気がします。
肩の力が抜けた一之輔さんのお話から、寄席に行った帰りのような、リラックスした気分を味わっていただけたらうれしいです。

表紙画は、酒井駒子さんの「ねむり」。あどけない子どもの昼寝姿は、もう無条件に可愛いものですが、酒井さんがこの絵に寄せてくださった言葉を読むと、はっとさせられます。子どもはもちろん、誰もが安心して眠れる世界、それをひとつの言葉にしたら、「平和」なのかもしれません。
「もう二度と戦争を起こさないために、一人ひとりが暮らしを大切にする世の中にしたい」
毎回くり返すようですが、それが『暮しの手帖』の創刊時からの理念です。
今号は「表参道・山の手大空襲を語り継ぐ」という特集記事を編み、空襲を体験した3名の方々と、地元の戦災を語り継ぐ活動をされている「山陽堂書店」店主の遠山秀子さんの思いをお伝えしています。記事では、むごたらしい空襲の話ばかりではなく、それ以前に確かにあった、穏やかで平和な暮らしの情景を描きこみました。そこには、いまの私たちの暮らしと何ら変わらない、「日々のささやかな喜び」が満ちています。
そしてまた、体験者の方々が、いまなぜこのつらい話を私たちに託すのか。どうか、結びのほうに盛りこんだメッセージをお読みください。肉声ではなくても、その言葉の強さに打たれるはずです。

最後に、このたびの大雨による災害を受けられた方々に、心よりお見舞い申し上げます。一刻も早く、もとの穏やかな暮らしが戻ってきますように。
暑さがたいへん厳しい日々が続きますが、みなさま、お身体を大切にお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織


暮しの手帖社 今日の編集部