本を愛し、信じる人へ。松岡享子さんの「ともしび」を、次の世代にも
こんにちは、編集長の北川です。
きのうのことですが、心に染み入る、とてもよい展覧会を観たので、みなさまにもぜひお知らせしたく、これを書いています。
「本とおはなしの楽しさを子どもたちに 松岡享子からの贈り物」。
絵本や童話がお好きな方なら、その翻訳者や作者であった松岡享子さんのことはきっとご存じでしょう。2017年に発行した『暮しの手帖』4世紀91号では、「松岡享子さんと雪のブローチ」という特集記事を掲載し、その取材に私も同行しました。
松岡さんが残してくれた、たくさんのお仕事の中でも大きなものとして、中野区にある「東京子ども図書館」の創設と運営がありました。この図書館の元になったのは、松岡さんや石井桃子さんほか、数名の有志が自宅を開放して行っていた「家庭文庫」の活動です。
「子どもと本の幸せな出会いのために」
そんな願い、志から生まれた「私立」の図書館であり、すぐれた本をたくさん揃えているのはもちろんのこと、薪ストーブのあるすてきな部屋で、「おはなしのじかん」が設けられてきました。
これは、生前の松岡さん、そして松岡さんの教えを受けた職員の方たちが、子どもたちにお話を語って聞かせる時間です。「読み聞かせ」とは異なり、お話をすっかり覚えた大人が、子どもたちの顔を見ながら語り聞かせる。子どもたちは、目を輝かせて「何か」を見ています。そう、物語の中にすっかり入り込んで、自分の頭で描き出した絵を見つめ、そして肉声に心地よく耳を傾けているのです。
耳を傾ける子どもたちと、お話を語る大人の間にあるのは、心が引き合って結びつくような豊かな時間。この展覧会をめぐりながら、松岡さんの取材で覚えた温かな感動がよみがえってきました。
もし、松岡さんをご存じなかったとしても、「自分は本に支えられてきた」と思う人なら、胸を熱くする展覧会であることは間違いありません。会場の奥では、親交の深かった方たちのインタビュー映像が観られるのですが、涙ぐんで見つめる方が何人もいらっしゃいました(私もその一人です)。
『暮しの手帖』の取材で、松岡さんが「雪のブローチ」を作ってくださる姿をとらえた映像も流されていて、編集部員がお貸し出ししたブローチも展示されています。
さて、松岡さんが力を注いだ「東京子ども図書館」は、今年1月に創立50周年を迎えました。図書館は、「子どものための施設だが、〈子どもっぽく〉はしたくない」、そんな松岡さんの考えがよく伝わってくる、レンガ壁の美しい建物です。
私立の図書館は公的な補助金を受けられないそうで、活動資金は100%、出版した本の売り上げや寄付などでまかなってきました。記事でご紹介した、松岡さん手づくりの「雪のブローチ」も、そんな活動資金を得る手段の一つだったのです。
このたび、設備ほかの大規模な改修工事が必要となり、「東京子ども図書館」は、初めてクラウドファンディングを通して寄付を募っています。松岡さんに心を寄せる方はもちろん、ご興味を抱いてくださった方は、下記をぜひご覧ください。
どうか、半世紀続くこの「ともしび」が、これからもずっとずっと、子どもの心を照らしていきますように。
(担当:北川)
◎東京子ども図書館 クラウドファンディング
https://readyfor.jp/projects/tcl50
◎「本とおはなしの楽しさを子どもたちに 松岡享子からの贈り物」
会場:ギャラリー エー クワッド(東京都江東区新砂1-1-1)
会期: 2025年3月13日まで
https://www.a-quad.jp/exhibitions/125/index.html