「近くの他人」は他人じゃないかも
(16号「沖本姉妹から継いだもの」)
今の賃貸マンションに引っ越してきて、5年が過ぎようとしています。
隣や階下の人とは会えば挨拶を交わしますが、
それ以上の関係に発展する気配も、きっかけもありません。
知るのは名字のみ。どんな仕事をし、どんなふうに暮らしているのか……。
「仲浅き隣はなにをする人ぞ」、といったところでしょうか。
そんななか、「沖本邸」のことを知りました。
それは国分寺市にある、敷地面積約600坪、築約90年の屋敷。
現在はカフェとして使われていますが、そのまえは、老姉妹が住んでいました。
驚くべきは、この屋敷を7年前に相続したのが、血縁のない他人であったこと。
近所に住み、姉妹に食事を差し入れたり、通院を手伝ったりしていた一家が
姉妹からの申し入れを受け、屋敷を継ぐことを決めたというのです。
「遠くの親類より近くの他人」とはいうけれど、
この都会で、どうしたらそんな濃い付き合いが生まれ得るのか。
私は信じられない思いで、現在屋敷を管理する久保愛美(くぼ・なるみ)さんにお話を伺うべく、
沖本邸を尋ねました。
いくつもの時代をくぐり抜けてきた屋敷と、そこに込められた人々の思い。
久保さんいわく、「この屋敷が人を選んで、呼んでいる気がする」。
それは、「事実は小説よりも奇なり」を地でいく物語でした。(担当:島崎)