まあるい空間と、そのつくり手の物語です
(15号「たあたあとした人 秋野等さんのモノ語り」)
こんにちは、編集長の北川です。
本誌の連載「すてきなあなたに」の執筆者のひとり、伏見操さんから、「記事にできないかな、と思う方がいる」とお話があったのは、4月くらいだったでしょうか。
伏見さんいわく、京都の街中にある徳正寺というお寺の庭に、木の上にのっかったようなお茶室があり、入れていただいたら、いつまでもいたくなるくらい居心地がいい。このお寺の前住職、秋野等さんがおひとりでコツコツとつくり上げたそうなのだけれど、この方を取材してみてはどうだろう……。
じつは私は、このお茶室「矩庵(くあん)」のことは、以前からなんとなく知っていました。建築史家の藤森照信さんが設計したお茶室として、建築が好きな人のあいだでは知られた存在だったのです。
けれども、『暮しの手帖』は「建築好き」の人だけが読む雑誌ではありませんし、いったいどんな切り口で記事にできるかな。そう考えながら徳正寺をお訪ねすると、「まずはお茶でも」と、夫人の章子さんが矩庵で煎茶を淹れてくださいました。
矩庵は、壁も床も同じ漆喰で仕上げられていて、低い椅子に腰を下ろすと、まあるい空間に包まれているよう。ステンドグラス風の大きな窓を壁に引き込むと、風がすーっと入ってくる。小さなお茶碗で一煎、二煎とお茶をいただくうちに、寝不足のアタマもしゃきっとして、心がすっと落ち着くのがわかりました。
そのあとでお話しした秋野さんは、なんだか矩庵そのものといった、「まあるい」感じの人。ゆっくりと優しい声で語られる、矩庵をつくり上げるまでの物語のなかでは、藤森照信さん、赤瀬川原平さん、南伸坊さんなどの友人たちが、いきいきと目を輝かせて、おおいに「遊んで」いました。
私の杞憂はどこへやら、記事は、秋野さんの純粋な生き方と、いろんな人びととの愉快な交流を物語る、なんとも温かなものに仕上がりました。「たあたあ」ってどんな意味あいなのかは、ぜひ、記事をお読みになって感じ取ってくださいね。(担当:北川)