いわさきちひろさんが伝えたかったこと
(13号「いわさきちひろの平和の物語」)
いわさきちひろ。この名を聞いたことがない、という人は少ないでしょう。
おそらく、多くの方が、絵本の挿絵などで、作品に親しんでいるのではないかと思います。
かくいう私もそうです。ちひろさんが絵をつけた絵本をたくさん読んで育ちました。
アンデルセンの「にんぎょひめ」の無垢で愛らしい表情や、
「あかいくつ」に登場する美しくておそろしい赤い靴は、
いまもはっきりと思い出すことができます。
そんなふうにちひろさんの作品を身近に感じながらも、
彼女の生涯について知ったのは、だいぶ大人になってからだったと思います。
親に決められた結婚に納得できず、自分の思いを貫いたこと。
戦後まもなくの時代に画家を志し、絵筆一本で生活を支えたこと。
共産党員として社会運動に関わったこと。
絵本作家の著作権が認められていなかった時代に、
原画の返却と権利を主張し、粘り強く交渉したこと。
その作風から、たおやかなイメージを抱いていたけれど、
自分のため、そして人のために、つよく、闘う人でもあったんだ──。
そんなふうに思い、ちひろさんにますます興味を持ちました。
今回の特集では、ちひろさんが晩年に取り組んだ、
反戦をモチーフとした作品をご紹介します。
病をおし、命を燃やすようにして描いた作品の数々。
そこに込められた思いを、ちひろさんの戦争体験、
および、ひとり息子で美術・絵本評論家の松本猛(たけし)さん、
生前に親交のあった弁護士の平山知子さん、
画家の田島征三さんの証言からひも解きます。(担当:島崎)