たとえ気づくのが遅くても

2021年04月02日

たとえ気づくのが遅くても
(11号「生きることは、楽しいことばかり」)

ある日、編集者の田中和雄さんのご自宅の前に立ちながら、
取材陣(特に私)はとても緊張していました。

取材前はいつも緊張するものの、
田中さんは、詩と絵本の出版社「童話屋」の創設者であり、
名だたる詩人や絵本作家と仕事をともにしてきた方。
86歳である今も、現役で本の制作をしていると聞いていたので、
もしかしたら、厳格な方なのではないか……と、
すっかり気持ちが萎縮してしまったのです。

ところが、ドアを開けた田中さんの穏やかな表情を見たとたん、
ほっと気持ちが和らぎました。

「僕は、遅れてきた青年だから」
取材中、田中さんはくり返しそう話していました。

童話屋の前身である「童話屋書店」を始めたのは42歳のとき。
小学校で詩の授業を始めたのは、70代も半ば。
「何かに気づくのも、始めるのも遅いんです。
でも、どこかで気づけばいい」

そう笑う田中さんの姿を見ていると、焦って先を急ぐばかりではなく、
身のまわりのことにゆっくり目を向けてみよう。
そんな気持ちが湧いてきました。
誌面を通してみなさまもぜひ、田中さんの言葉に
耳を傾けていただけたらと思います。(担当:井田)


暮しの手帖社 今日の編集部