新しくするよりも、残すこと、継ぐことの大切さ。

2019年05月28日

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新しくするよりも、残すこと、継ぐことの大切さ。
(100号「家族の50年、変わる暮らし、住み続ける家」)

 98号の「玄関のしつらえ」でうかがったお宅でした。
東京・文京区の小野弘美さんご家族のお宅です。玄関はもちろんすてきだったのですが、玄関ホールから居間におじゃました瞬間、さらに他の部屋を拝見するたびに、我々取材チームはびっくりしたのです。
 そこに広がっていたのは、ちょっと懐かしい昭和の雰囲気が強く香る、でもとてもシンプルでモダンな空間でした。
 聞けば、50年前に建てられたこの家の設計は、鈴木彰という建築家とのこと。住宅建築の巨匠、吉村順三の愛弟子だそうです。なるほど、この昭和モダンな室内の「空気」、うなずけます。
 そのすてきな空間の様子は、ぜひ本誌をご覧ください。
 私は、新幹線の車窓から町並みを見るのが好きです。元来、その土地それぞれの気候風土や地場の資材によって、建物が違ったのでしょう。流れる景色の中で地域が変わると、屋根の形や瓦、壁の様子が違うのは興味深いものです。たとえば、米原や彦根あたりで、「あ、建物が変わった」とはっきり感じたことがありました。
 それはひとつの文化です。
 それがどんどん失われていくのも目にします。近年、同じ顔をした家がずらりと並ぶ景色に出合うことが、とても多く感じるのです。新幹線の窓から見えたあの家々のように、このぴかぴかの街も、古い町並みになるまで住まれるだろうか。そんなふうに思います。
 以前、ある建築家の方から「長持ちする家」についてお話をうかがったときに、印象に残ったことがあります。それは、「耐久性のある、丈夫な家であることはひとつの必要な条件。でも、それと同時に、愛着を持って住まれる建物であることも重要」ということでした。そこに住む家族に、または第三者に愛される建物でなければ、いくら丈夫で長持ちする家でも、いずれ建て直されてしまう、ということです。現在は、スクラップアンドビルドで、短いサイクルで壊して建て直すことが多いのが現実です。
 では、魅力のある、長く住み続けられる家ってどんな建物だろう。そこにはどんな暮らしがあるんだろう。そんな思いから、今回小野さんご家族に取材をさせていいただきました。
 建物の魅力はもちろん、ご家族もすてきな方々でした。手を入れ、改修しながらの50年のお話から、とても大切なことを教えていただくことができました。
 これは、あるひとつの例であり、それぞれの地域に、たくさんの「ながく住み続ける家」のかたちはあると思います。また機会がありましたら、このテーマでいろいろなお宅を取材させていただきたいと思います。(担当:宇津木)

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暮しの手帖社 今日の編集部