「かわいい画家」の素顔をさぐって

2018年04月03日

「かわいい画家」の素顔をさぐって
(93号「猪熊さんって、どんなひと?」)

猪熊_DSC_0185

香川県丸亀市といえば、讃岐うどんを連想する方も多いと思いますが、もうひとつ忘れてならない存在が、「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」(愛称MIMOCA)です。
場所は、丸亀駅のすぐ目の前。方向音痴の私でも、迷いようがありません。建物の前面には、巨大なキャンバスのような真っ白い大理石の壁があって、この美術館のあるじ、画家の猪熊弦一郎(1902-1993年)の絵がのびのびと描かれています。何頭もの馬や、自動車や飛行機のようなもの。あれ? 隅っこにいるのはくじら君かな??
語弊があるかもしれませんが、それはとっても「かわいい」のです。小さな子どもの絵を見るように、なんだか頬がゆるんでしまう。80代のおじいさんが描いた絵とは思えません。
さらに美術館の中に入ると、猪熊さんが自宅に無数に遺した雑貨の一部(人形やおもちゃ、スプーンなどさまざま)、針金などで作った小さなオブジェ(「対話彫刻」と言います)もずらっと並んでいて、その「かわいさ」に圧倒されます。きっと、誰もが思うことでしょう。
こんな素敵なモノたちと暮らした猪熊さんって、どんな人だったのだろう? と。

今回の企画では、ご親族や長年の弟子であった荒井茂雄さんを訪ね、猪熊さんとの思い出の品々を撮影しながら、心に残るお話をじっくりとお聞かせいただきました。
愛妻・文子さんとともにパリやニューヨークで暮らし、芸術の息吹に触れながら、常に新しい表現をつかもうと果敢に挑んで生きたこと。訪ねてきた人は、たとえ無名の若者でも分け隔てなく接し、気持ちよくもてなす夫妻だったこと。新しいものが好きで、80代になっても、発売したてのウォークマンにビートルズなどの楽曲を入れて、聴きながら絵を描いたこと。文子さんとの別れと、その後に生み出した表現について……。
「シャープ、シンプル、フレッシュ」とは、荒井さんが猪熊さんの画風を言い表した言葉。みずみずしい感性で、子どものように純粋に描くことを楽しんだ猪熊さんが、目の前にすくっと立っているかのような、それは素晴らしい取材のひとときでした。
東京渋谷の「Bunkamura ザ・ミュージアム」では、4月18日まで、「猪熊弦一郎展 猫たち」を開催中です。ぜひ、足をお運びください。(担当:北川)


暮しの手帖社 今日の編集部