以前、木工作家さんを取材した時のことです。
木を膝で挟むようにして作業するため、ジーンズの膝の内側がすぐに擦り切れてしまうといいます。
彼女はそこに布を当て、様々な色の余り糸で縫い付けていました。
配色を楽しむかのように、自由奔放に布の上を走らせた糸は、とてもおしゃれに思えました。
『暮しの手帖』創刊編集長の花森安治は、1946年の『スタイルブック』の巻頭言で、こう述べています。
おしゃれ、といえば何か、さしせまった毎日の暮しとは係りのない、浮いた遊びごとか、ひまがあってお金があって、というひとたちでなければ出来ないことのように考えられてはいないでしょうか。
そんな風なおしゃれも、たしかにこの世の中にはあるかも知れない。
けれども、そんな、お金さえかければ美しくなれるとか、ひまがないから、おしゃれが出来ないとか、
毎日の暮しから浮き上がってしまった遊びごとなら、
私たちは、おしゃれのことなど考えることは要らないと思います。
ほんとのおしゃれとは、そんなものではなかった筈です。
まじめに自分の暮しを考えてみるひとなら、誰だって、
もう少し愉しく、もう少し美しく暮したいと思うに違いありません。
より良いもの、より美しいもの求めるための切ないほどの工夫、
それを私たちは、正しい意味の、おしゃれだと言いたいのです。
それこそ、私たちの明日の世界を作る力だと言いたいのです。
別冊『おしゃれと暮らし』を制作するにあたり、この言葉を大切にするように心掛けました。
作家の小川糸さん、刺しゅう作家の神津はづきさん、スタイリストの伊藤まさこさんなどから、
暮らしから生まれた「おしゃれ」の工夫を教わったり、
いま、クローゼットにある服で新鮮なコーディネートができる配色を考えたり、
誰もができるおしゃれのヒントを集めてみました。
ただ、ここにあるのはあくまでもヒントです。
暮らしの必要や生活を楽しくしたい、という気持ちに真摯に向き合い、試行錯誤を繰り返す、
その過程を楽しむ姿勢こそが「おしゃれ」なのかもしれません。
別冊編集長 古庄 修