暮らしを大切にするって、どんなこと?
――編集長より、最新号発売のご挨拶
蟬がにぎやかに鳴いて梅雨明けとなり、いっきに、猛暑がやってきました。みなさま、お元気でお過ごしでしょうか。
前回、この「ご挨拶」を書いたのは、今号の表紙画を受け取りに京都へ向かう新幹線の車中でした。絵の作者は、佐々木マキさん。漫画家でイラストレーター、そしてたくさんの絵本を手がけてきた方です。イラストレーションのお仕事としては、『風の歌を聴け』ほか、村上春樹さんの小説のカバーが浮かぶ方も多いかもしれませんね。
はじめにお送りした手紙の写しを見返すと、
「ギスギスした空気の漂う昨今ですので、ユーモアがあって、心がほぐれるような絵を」
とあります。
佐々木マキさんはすぐに、「お受けします」とファクスをくださり(絵本や漫画でおなじみの可愛い字で)、とてもうれしかったのを思い出します。
今号を目にした方が、くすっと笑って、気持ちがふっとやわらぎますように。
さて、ときどき読者の方から、
「夏になると、『暮しの手帖』が戦争や平和の特集を組むのはなぜなのでしょうか」
というご質問をいただくことがあります。
ひと言でお答えすれば、それは1948年に『暮しの手帖』が創刊したときに掲げた、
「もう二度と戦争を起こさないために、一人ひとりが暮らしを大切にする世の中にしたい」
という理念を、くり返し胸に刻み、お伝えしたいと思ってのことです。
なぜ、暮らしを大切にしたら、戦争が起こらないの? と疑問に思われるかもしれませんが、初代編集長の花森安治はこんなふうに語ったと伝えられています。
「戦争は恐ろしい。(中略)国は軍国主義一色となり、誰もかれもが、なだれをうって戦争に突っ込んでいったのは、ひとりひとりが、自分の暮らしを大切にしなかったからだと思う。もしみんなに、あったかい家庭、守るに足る幸せな暮らしがあったなら、戦争にならなかった」
つまりは、自分たちの「大切な暮らし」をめちゃくちゃにするような大きな力に、一人ひとりが早くから全力で抗っていたなら、戦争は起こらなかった、ということでしょうか。
そんなに単純じゃない、と思われるかもしれません。けれども、「平和」を考えるとき、それはある日突然やぶられるものではなく、じわじわと、ゆっくりと何かに暮らしがからめとられ、気づけば身動きがとれなくなって奪われるものなのかもしれない。そう思うのです。
「一人ひとりが暮らしを大切に」とは、「自分の暮らしが守られれば、それでよい」という意味あいでは決してないと私は思います。自分に大切な暮らしがあるように、隣人にもそんな暮らしがあると想像し、尊ぶこと。一人ひとりの、それぞれに違った暮らしが守られるために、どんな世界にしたいかを考えて、小さな声をあげていくことをあきらめない。
……と、なんだかカタくなりましたが、たかだか「雑誌」でも、私たち自身が「小さな声」をあげる気持ちで、一冊一冊を編んでゆきたいなあと思います。せっかく、読んでくださる方がいらっしゃるのだから。
最後にひとつ、お知らせです。じつにアナログな私たちですが、このたび、公式Instagramを開設しました。
https://www.instagram.com/kurashinotecho
Facebookでは、おもに文章で誌面の内容をご紹介していますが、Instagramでは、スタッフの方たちの力作である、写真やイラストレーションを軸にご紹介します。ときどき、覗いていただけたらうれしいです。
それでは、暑さ厳しい日々が続きますが、みなさま、どうか健やかにお過ごしください。
『暮しの手帖』編集長 北川史織