『昭和歌謡は終わらない』 近藤勝重 著
幻冬舎 1200円+税 ブックデザイン 山家由希
昭和歌謡の世界を、たっぷりと紹介した一冊。『天城越え』『神田川』『なごり雪』『時の過ぎゆくままに』……160を超える名曲が取り上げられており、歌詞もたくさん載っているので、本文を読むのを中断して、ついつい歌ってしまうくらいです。
著者の近藤勝重さんは、元新聞記者。文筆家でありながら、ラジオの特番で昭和歌謡のDJ役まで務めてしまう、ツワモノです。ゆえに、テーマも粒ぞろい。男と女、政治、スター、AIまで、世相をからめながら、時にしっとりと、時に痛快に解説しています。
昭和歌謡にまつわるエピソードも豊富。例えば、久世光彦のエッセイから引いたという、こんな話も。美空ひばりのコンサートの終演後、楽屋にかけつけた久世は、新曲のテープを彼女に聞かせたそうです。ひばりは、ポロポロ涙をこぼし、かすれた声で歌ったのです。その様子は、まるでドラマの一場面のよう。彼女の歌が、今も多くの人の心を捉えて離さない、その理由がわかります。
最も読みごたえがあったのは、「二人のカリスマ なかにし礼&阿久悠」の章。言わずと知れた二人ですが、軟派と硬派の対比対照が実に鮮やか。『石狩挽歌』(作詞・なかにし礼/作曲・浜圭介)では、北原ミレイが「オンボロロ」と唸り、『舟唄』(作詞・阿久悠/作曲・浜圭介)では、八代亜紀が包み込むように「ダンチョネ」と歌う。二人のカリスマがいたからこそ、昭和歌謡は幅と奥行きを持ちえたのだと、思い知りました。
ちなみに、私は断然、阿久悠派。『また逢う日まで』『もしもピアノが弾けたなら』『津軽海峡・冬景色』『時代おくれ』……好きな歌を挙げたらきりがありません。そして何より、阿久悠さんは『暮しの手帖』に一年半ほど、詩をお寄せくださいました。10年ほど前、そのページの担当者の一人として、私も阿久悠さんの原稿を心待ちにしたものです。
さかのぼって1993年、春の選抜高校野球で『今ありて』が新大会歌として採用されました。作曲は谷村新司、作詞は阿久悠。当時、著者は新聞社の論説室にいて、開幕当日の朝刊にセンバツの社説を書いたそうです。そのころ私は高校生で、のちに阿久悠さんにお目にかかるなんて思いもせず、『今ありて』を口ずさみました。
「今ありて 未来も扉を開く
今ありて 時代も連なり始める」
そして、四半世紀。時代は連なり、平成もあとわずか。
しかし、まぁそう焦らず、まずは本書を読んで、昭和歌謡の素晴らしさを堪能してください。今はYouTubeという便利なものもありますから、分別盛りの方はもちろんのこと、若い方も、ぜひ昭和歌謡を聴いてみてください。そのパワー、その情感、きっと心奪われることでしょう。
さあ、あなたも、プレイバック昭和! (圓田祥子)