『人みな眠りて』 カート・ヴォネガット 著/大森 望 訳
河出書房新社 2,000円+税 装釘 川名 潤
今回から、本誌で連載している「本屋さんに出かけて」を、このブログでも始めることになりました。私たち編集部員が実際に読んだ本のなかから、毎号8冊をご紹介している頁ですが、誌面に掲載しきれないすてきな本が、まだまだたくさんあるのです。
さて、今回ご紹介するのは、カート・ヴォネガットの『人みな眠りて』です。
カート・ヴォネガットは、『タイタンの妖女』『猫のゆりかご』『スローターハウス5』などの作品で知られる、現代アメリカ文学を代表する作家のひとりです。この本は、ヴォネガット没後10年の今年刊行された、未発表の短編を集めた一冊。彼の未発表作品集は、没後いくつか出ていますが、この本は、キャリア初期に書かれた作品を集めたもの。当時の家庭向け高級雑誌に投稿していた、1950年代の作品群です。シンプルなテーマと若々しいタッチで、人間味あふれるキャラクターたちと、彼らにまつわる小さなドラマが描かれています。彼の同時期のよい作品をきちんとまとめる出版は、今後はもう見込めないそうで、「最後の短編集」と謳われています。
この本は、ヴォネガットらしい、やさしさとシニカルなおかしみが全編にあふれています。ユーモアたっぷりに、人間のすばらしいところとダメなところを照らし出しているのです。とくに、名声や見栄、そしてお金の問題から人が何を学ぶのかというようなテーマは秀逸。でも、さすが青年期の作品で、前に挙げた代表作とは少し違って、明快でわかりやすくて楽しげな筆致。そして、当時人気だった、意外な結末で話を締めくくるスタイルも特色です。温かみのあるメッセージに勇気づけられ、多彩で巧妙な「オチ」を楽しめる一冊なのです。(宇津木)