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小さな家と住み手の物語

2024年10月16日

小さな家と住み手の物語
(32号「吉村順三の小住宅 いつも音楽が満ちていた」)

自由が丘駅から少し歩いた、なだらかな坂道の途中に、庭木に囲まれた家が建っています。建築家・吉村順三が、まだ戦後で物資が少ない時代に、園田高弘さん・園田春子さん夫妻に依頼されて設計を手がけた家です。中に入ると、延床面積23坪とは思えないほど、豊かな空間が広がっていることに驚きます。
もうひとつの驚きは、この家が70年の時を経た今も、当時の趣を残したままこの土地に残っていること。そこで誌面では、この家で長年暮らした園田春子さんに、家に抱く思いと新しい持ち主に受け継ぐまでの道のりについて、お話を伺いました。小さな家と住み手の物語に、じっくりと耳を傾けていただけたらと思います。(担当:井田)

読めば心が軽くなる

2024年10月15日

読めば心が軽くなる
(32号「愛子さんの なんか変だな?」)

今号から始まった新連載をご紹介します。

保育歴50年、自主幼稚園「りんごの木」を主宰する柴田愛子さん。76歳になる今も、子どもたちに「愛子さーん」と呼ばれ、毎日子どもたちと一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、ケンカを見守ったり、時にはお母さんお父さんに向けてお話ししたりしています。

これまで本誌の特集や連載で、何度かりんごの木を訪れ、愛子さんに取材をしてきました。その度に、自分の心が軽くなって、小さな悩みが吹き飛んでしまう、という不思議な経験をしました。愛子さんがたくさんいたら、世の中の悩みなんてなくなってしまうのでは、と思ったほどです。

元気でおおらかな愛子さんからのメッセージを、もっと伝えたいと感じたのが、この連載のきっかけでした。

愛子さんが日頃感じている「あれ、おかしいな?」と思うことを語っていただくことで、私たちの心の奥のモヤモヤが言語化されて、スーッと晴れていくような、そんなお話をお届けできたらと思っています。

子育て中の方はもちろん、子育てはとうに卒業したという方たちにも読んでいただきたい内容です。

また、絵本『たぷの里』『ぞうのマメパオ』の著者・藤岡拓太郎さんに、クスッと笑ってしまう挿絵を描いていただいています。こちらも併せてお楽しみください。(担当:小林)

いいことづくめの自家製ベーコン

2024年10月11日

いいことづくめの自家製ベーコン
(32号「手作りベーコンはお得です」)

添加物が気になって、市販のベーコンを控えている方に朗報です。フランスのシャルキュトリー(食肉の加工品専門店)での修業経験がある上田淳子さんに、自家製ベーコンの決定版レシピを教わりました。

市販の無添加ベーコンはお値段が張りますが、自分で作れば経済的で、だから惜しみなく使えます。しかも、手作りでは味わいが物足りないかというと、そんなことはありません。簡単で、何よりもおいしくて、燻製の具合も好みで調整できますので、手作りはとてもお得なのです。

今回は、「塩豚を作る」「オーブンで焼く」「燻製する」の3ステップで作る方法をご紹介します。家庭で無理なく作るポイントは、オーブンを使うこと。低温のオーブンであらかじめ肉に火を通しておくと、そのあとの燻製時間をぐっと短くできますし、専用の燻煙機もいりません。燻製用の木製チップと焼き網だけ準備すれば、あとは手持ちの鍋やボールを組み合わせて作れます。

出来上がったベーコンは、ジューシーな味わいがたまりません。焼くだけでもおいしいですが、焼いて出たおいしい脂を生かした、簡単なお料理二品も大変おすすめです。自家製には興味がないという方も、ぜひお試しを。こんなに簡単でおいしいなら、きっとこれからも続けたい、と思うはずですよ。(担当:佐々木)

女性の9人に1人が罹患しています

2024年10月10日

女性の9人に1人が罹患しています
(32号「知っておきたい乳がんのこと」)

日本では、毎年9万人以上の女性が乳がんと診断されています。女性のがんの中で最も患者数が多く、その割合は9人に1人。家族や友人、職場の同僚など身近な人の中に乳がん経験者がいるという方も多いのではないでしょうか。
乳腺専門医の坂東裕子先生は、「乳がんの治療は日進月歩です。早く見つかれば治りやすいがんの一つなので、ぜひ前向きに治療を受けてください」と話します。乳がんの標準治療には、がんの性質や広がり方によってさまざまな選択肢があり、患者は担当医と相談しながら納得のいく選択をする必要があります。また、将来の妊娠の可能性を残す「妊孕性温存療法」や、手術で切除した乳房を「再建」するか否かなど、人生設計や価値観によって選択する場面も。今回は坂東先生監修のもと、一般的な治療の流れやさまざまな選択肢について解説します。
さらに、治療と仕事の両立のために知っておきたいこと、必要な費用、家族や友人への告知方法などについて、患者と家族の支援に携わる社会福祉士の坂本はと恵さんに教えていただきました。
今回の取材で私が特に心を動かされたのは、乳がん経験者2名にお話を伺ったことです。お二人とも診断時は「まさか」という気持ちで目の前が真っ暗になったとのこと。現在は治療を終えて仕事にも復帰してらっしゃいますが、経験が誰かの役に立つならばと当時を振り返ってくださいました。その中で60代の方が語った「がんになりたくはなかったけれど、悪いことばかりではなかった」という言葉は特に印象的でした。自分でとことん調べたり、担当医に尋ねたりしながら納得のいく選択を重ね、家族もそれを尊重して支えてこられたのだろうなと感じた言葉でした。
いつか自分や身近な人が乳がんと診断された時のために。まずはこの記事を読んで、早く見つかれば悲観する病気ではないこと、治療にはさまざまな選択肢があること、治療と仕事は両立できることなどを知っていただけたらと思います。(担当:田村)

藁を知るほどに魅せられて

2024年10月09日

藁を知るほどに魅せられて
(32号「藁の神様に選ばれしひと 酒井裕司さんの奮闘記」)

長野県は飯島町で毎年11月に行われている「米俵マラソン」をご存じでしょうか。出場するランナーたちが米俵を担ぎ、5kmか10kmのコースを走る、人気のマラソン大会です。
町おこしのために、この米俵マラソンを始めたのが酒井裕司さんなのですが、そこから酒井さんの人生は一変します。サラリーマンをしていた酒井さんは、ひょんなことから藁職人の道を歩むことに……。そんな酒井さんの、ここ10年ほどの奮闘ぶりをお伝えします。(担当:井田)

隣に暮らすあの人は

2024年10月08日

隣に暮らすあの人は
(32号「クルドのお母さんと糸のふちかざり」)

皆さんは、オヤというトルコに伝わる手仕事をご存じでしょうか。スカーフなどの布製品の縁を飾る、糸編みの技術です。ある時、私はオヤのアクセサリーに出会い、その美しさに魅了されて、川口市で開かれていたオヤ教室に参加しました。出迎えてくれたのは、教室を主宰する中島直美さんと、クルド人の女性Wさん。「あれ、トルコの方じゃないんだなあ」。素朴な疑問を抱いた私はWさんに、オヤについて、また、生い立ちや来日の経緯などについて、お話を伺いました。
今、川口市周辺には、2000人ほどのクルドの人々が暮らしています。クルド人の方々いわく、「近隣の日本人とは付かず離れず」。悪感情を向けられることもないけれど、仲良く交わることもないと言います。昨今、近所付き合いは日本人同士でもそんなもの。言葉が通じない者同士となれば、無理もないのかもしれません。
一方でこのところ、在日外国人に対するヘイトデモがしばしば報じられています。隣に暮らす人はあの人は、一体どんな人なのか。なぜ、ここにいるのか。もしかすると、Wさんのお話が想像の一助になるかもしれません。クルドの女性たちにお借りして撮影した、スカーフを縁取る見事なオヤの写真の数々もお楽しみください。(担当:島﨑)

本屋さんに行く楽しみのひとつ

2024年10月07日

本屋さんに行く楽しみのひとつ
(32号「書皮の心意気」)

本屋さんで書籍を買うとかけてくれる紙のブックカバーを、「書皮(しょひ)」と呼ぶことはご存じでしょうか。大胆なイラストや、文字やロゴ、その地域の古い地図など……、各店の個性が詰まっています。この書皮、実は日本独自の文化で、海外ではほとんど見られないものだそうです。

本特集では、全国26店の書皮を「画家、イラストレーター」「地図」「文字と柄」「写真」、そしてここ2022年以後オープンした「ニューオープン」の5つのカテゴリーに分けてご紹介します。

また、書皮をこよなく愛する会「書皮友好協会」の発起人の一人である田中栞さんに、その歴史や成り立ちなどをうかがいました。田中さんが「一番きれいにぴったりとかけられる」というカバーのかけ方も、併せてご紹介しています。ぜひお試しください。

コロナ以降、書店に足を運ぶ機会が減ったという方も多いかと思います。かく言う私も、ネット書店で本を買うことが増えてしまったのですが、それぞれの本屋さんの書皮に対する心意気を知った今、カバーをかけてもらわないなんてもったいない!と思うようになりました。お近くの、また旅先などでも、本屋さんに足を運ぶきっかけになればと思います。(担当:小林)

とりどりのクッキーを詰め合わせて

2024年10月04日

とりどりのクッキーを詰め合わせて
(32号「クッキー缶をあのひとへ」)

缶いっぱいにぎっしりと詰められたクッキーを目にすると、なんとも幸せな気持ちになります。なかでも、東京は松陰神社前の菓子店「メルシーベイク」のクッキー缶は、格別のおいしさ。季節限定のクッキー缶を求めに、たくさんの人が訪れます。
自分でも、あんなふうにクッキーを缶に詰めて贈ることができたなら……。そう思い、パティシエを務める田代翔太さんに相談をしてみると、シンプルな材料と手順で作れる4種のクッキーを提案してくださいました。「アーモンドボールクッキー」や「全粒粉のショートブレッド」など、食感や味わいが異なり、ほんのり塩気を感じるクッキーは、思わずもうひとつ……と、手がのびるおいしさです。
誌面でご紹介しているクッキー缶の包装紙の絵柄は、『暮しの手帖』の目次絵や「メルシーベイク」のクッキー缶の包装紙の絵を手がけている、イラストレーターの塩川いづみさんに描いていただきました。ご自分でシンプルな絵柄を描いて、クッキー缶にくるりと巻いて、贈りものにしてみませんか?(担当:井田)

わざわざ食べに行きたい「おかゆ」

2024年10月03日

わざわざ食べに行きたい「おかゆ」
(32号「北海道・東川町 奥泉のおかゆ」)

北海道の東川町(ひがしかわちょう)をご存じでしょうか? 旭川空港から車で15分ほどの立地で、北海道で唯一の上水道のない町です。蛇口をひねれば、おいしい天然水が出てくるなんて、うらやましいですね。
4年半前に東川町へ移住し、「中国茶とおかゆ 奥泉(おくいずみ)」を営む奥泉富士子さん、斎藤裕樹(ひろき)さん夫妻を訪ね、開業に至るまでの試行錯誤をうかがいました。取材の最後に、今の気持ちを尋ねると、「最高です!」と笑顔で話されたことが忘れられません。
どこまでも広がる田畑と、雄大な大雪山を眺めながらいただくおかゆは絶品。「お店では、のんびり過ごしてほしいから」と、わざとランチ時間を外して営業しています。
みなさんにもぜひ、「奥泉」でおかゆを召し上がっていただきたいのですが、東川町までなかなか行けないという方のためにも、家庭で作りやすく調整したおかゆのレシピを教えていただきました。材料や作り方がシンプルな分、素材の味が味わえて、お腹と心に沁み渡るおいしさです。東川町に思いを馳せながら、ぜひお試しください。(担当:平田)

俳句は生きるための杖

2024年10月02日

俳句は生きるための杖
(32号「日々に見つける五七五」)

たった17音で、情景や詠み手の心情を豊かに言い表す「俳句」。本企画は、そんな俳句の面白さを掘り下げ、作句の醍醐味についてお伝えするものです。テレビ番組『プレバト!!』の俳句コーナーをはじめ、俳句を広めるために、精力的に活動する俳人の夏井いつきさん、俳人として50 年以上も俳句を作り続けている小児科医の細谷亮太さんに対談いただきました。
愛する父を亡くした時に、心の中を言葉で表現する大切さを知った、と語る夏井さん。一方、細谷さんには、がんにおかされた幼い患者を看取りながら、その過酷な体験を詠んだ句がいくつもあり、読むとその時のことがよみがえると話します。おふたりのお話を伺いながら、風流な遊びのように思っていた俳句が、人の人生や暮らしに深く根付いたものなのだと気づきました。
結社(俳句グループ)の選び方や、作句の心得なども伺っています。これを機に俳句初心者の皆さんも尻込みせずに挑戦していただけたらと思います。(担当:島﨑)

爽やかな香りと酸味が広がります

2024年10月01日

爽やかな香りと酸味が広がります
(32号「柚子をめいっぱい」)

秋から冬にかけて、黄柚子の旬がやってきます! 庭木として育てている家もあるため、お裾分けをいただく機会も多いのではないでしょうか。私もその一人で、毎年実家からたくさん柚子をもらい、皮を煮物に添えたり、せっせと果汁を絞り、ハチミツと混ぜてホットドリンクにしたり。けれども、それだけではなかなか使いきれず、持て余してしまうことが多かったのです。
そこで、「柚子の皮と果汁をたっぷり使う、柚子が主役になる料理を教えてください」と、料理家の長谷川あかりさんにお願いしました。柚子が大好きだという長谷川さんが提案してくださったのは、柚子の皮を丸ごと1コ分使うカオマンガイふうの炊き込みご飯や、鯛の刺身と柚子果汁を合わせる漬け丼、豚肉と柚子皮の炒めものといった、アイデアいっぱいの料理です。いずれも、肉や魚のうま味に柚子を合わせて、味つけは塩だけというシンプルさ。だからこそ、爽やかな香りとほどよい酸味が引き立ち、“柚子ならでは”のおいしさを味わえます。
また、納豆ご飯やみそ汁、タルタルソースなどに柚子を加えてひと味変えるアイデアも教えていただきました。試してみると、意外な相性の良さに驚きますよ。
お裾分けの柚子もどんと来い。この季節だけの味を存分に楽しんでくださいね。(担当:田村)

光と風の、気持ちのいい場所。

2024年09月30日

光と風の、気持ちのいい場所。
(32号「描きたくなる旅 糸島編」)

「懐が深くて、明るい人。男惚れするほどなんだ。平川さんがつくっている『またいちの塩』。これが、おいしいんだよ」。
画家の牧野伊三夫さんがそう話すのは、福岡県・糸島半島のとったんに工房を構え、昔ながらの製法で塩をつくる平川秀一さんのことです。牧野さんは、平川さんのお人柄と、味わい深くておいしい塩に感動して『塩男』という絵本をつくったほど魅せられています。

今回は、牧野伊三夫さんが会いたい人・平川秀一さんに会いに、糸島を訪ね、心動かされた風景や人を描く旅に同行させてもらいました。
この旅は7月中旬の、梅雨明けももうすぐ……という頃です。天気予報では雨マークでしたが、到着すると、そこは気持ちがいいほどの晴天で、平川さんは、浜甘草(はまかんぞう)という百合に似た花を手に、太陽のような笑顔で迎えてくれました。
牧野さんはキャンバスを何枚も準備して、早朝から絵を描きます。

ポタポタポタポタ……竹と丸太で組まれた、「立体式塩田」から落ちてくる海水の雫。寄せては返す、穏やかな波の音。スタッフの方々の笑顔、笑顔。本当に気持ちのいい場所で、みなさん汗をかきながら、いきいきと働いておられる姿が印象的でした。
そして、ここでつくられている塩は、自然からの恵みと、人の情熱の結晶だと、つくづく感じ入りました。
牧野さんの絵と文章とともに、糸島の太陽の光、心地よい風をお届けします。(担当:佐藤)


暮しの手帖社 今日の編集部