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人生の泳ぎ方は、人それぞれ

2024年11月20日

人生の泳ぎ方は、人それぞれ
(書籍『こんな世界でギリギリ生きています みらいめがね③』)

『暮しの手帖』本誌で8年続く人気の連載「みらいめがね」。その単行本最新刊のご紹介です。今回のタイトルは、『こんな世界でギリギリ生きています』。
収録しているのは、ストレスによる「歯ぎしり・食いしばり癖」のお話や、新型コロナの罹患体験など身近なことから、学生時代のアメリカ留学のことや戦禍のウクライナ現地取材など海外での経験まで。荻上チキさんの「みらいめがね」は、虫めがねから巨大望遠鏡レベルまで幅広くフォーカスしています。

「エッセイを書くという行為は、自分を丸ごと差し出すような恐さがある」
まえがきで荻上さんが書かれているように、飾らず赤裸々に、個人的な体験やそこで感じたこと、考えたことを通して、読む人の「ギリギリ生きてる困難さ」に寄り添います。それが「みらいめがね」のやさしい視線になっているのです。

毎回、荻上さんのエッセイに、ヨシタケシンスケさんが7コマのイラストストーリーを描いてくださっています。全話、それぞれのテーマにヨシタケさん独自の視点から描かれたお話。それがまた、クスリと笑ったりホッと気持ちがあたたかくなったり、味わい深いものばかり。
毎回ご好評の装釘は、今回も秀逸です。かわいくておもしろい仕掛けの表紙もお楽しみにどうぞ。

本当に、いろいろありすぎる世の中です。あなたもギリギリの状態にちょっと疲れたら、この本を読んでひと息つきませんか? きっと、こわばった頬がちょっとゆるみますよ。(担当:宇津木)

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花森が愛情を込めた、幻の影絵絵本を

2024年11月14日

花森が愛情を込めた、幻の影絵絵本を

 1950年に刊行された、藤城清治さんの初めての影絵絵本『ぶどう酒びんのふしぎな旅』。
 初代編集長・花森安治の提案から生まれたこの本は、藤城さんがアンデルセン童話の中でも一番好きだという『びんの首』が原作です。残念ながら、今では社内にも数冊しか残っておらず、古書店でもなかなかお目にかかりません。今回、その“幻の影絵絵本”とも言われる一冊を、別冊『100歳おめでとう 影絵作家 藤城清治』刊行を記念し、復刻版としてとじ込み付録にしました。

当時の藤城さんの影絵はまだ色はなく白黒。だからこそシャープで、それでいて温かみのある独特の線や、大胆な構図が際立ち、頁をめくる度に洗練された美しさに心震えます。
 さらに、その美しさを引き立てているのが、花森のデザインです。影絵に黒い縁を付け、文字色を茶系に。このような細やかな工夫から、花森の藤城作品への愛情を感じていただけると思います。

 そのため復刻版では、当時のデザインや文章を踏襲し、修正は最低限にとどめました。けれども、判断に迷った箇所がいくつかありました。その一つが以下のくだりです。
 「こうして、このびんの口は、ふしぎな身の上話を、自分と自分に話して聞かせはじめました」
 主人公のぶどう酒びんが、自身の数奇な生涯について語る場面です。編集部では「“自分で自分に”の誤植ではないか」「取るはずだった“自分と”が残っているのではないか」とさまざまな意見が飛び交いました。そんなとき、手書きの元原稿が見つかり、「自分と自分に」は、何と花森の手による加筆であることが判明。孤独はぶどう酒びんの、誰かに話したいと思いつつも、話す相手がいない寂しさを強調するために、「自分と自分に」と加筆したのだろう。そう解釈し、そのまま掲載することにしました。

 花森が細部にまで手を加え、世に送り出した影絵絵本。復刻にあたり、「花森の思いを継ぎ、現代の発想で、影絵絵本をより楽しんでいただける工夫を……」と、初の試みで、同作の朗読音声を特典として付けました。読んでくださったのは、声優の津田健次郎さんです。『ぶどう酒びんのふしぎな旅』は童話と言っても、人生の苦味が詰まった大人っぽいお話。津田さんの深みのある声が、白黒影絵と童話が織りなす作品世界を、色鮮やかに描き出してくださっています。なお、朗読音声はダウンロードして聴いていただくもので、期間限定の特典です。ぜひお早めにお手に取って、お楽しみください。(担当:須藤)

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新刊『藤城清治 傑作選  魔女の赤い帽子』刊行のお知らせ

2024年10月30日

今年4月に100歳を迎えられた影絵作家の藤城清治先生。
藤城先生の百寿をお祝いして、暮しの手帖社としては『お見舞にきたぞうさん』以来34年ぶりとなる影絵絵本の新刊『魔女の赤い帽子』を刊行します。

先生のお名前は『暮しの手帖』の創刊号に掲載されています。この時から「お母さまが読んで聞かせるお話」の「絵」の部分を担ってこられました。次の2号で、影絵が早くも試みられます。1号置いて、4号から影絵とお話のスタイルが定着し、1965年の80号までモノクロページで掲載が続きました。お話の作者が亡くなられたため、しばらく間があきます。

『暮しの手帖』に影絵が再登場するのは1974年の第2世紀33号で、この時から影絵がカラーになります。1996年の第3世紀63号まで、23年間で131作が『暮しの手帖』の誌面を彩りました。この頃の「カラーの影絵のお話」を聞いた、見た、読んだと覚えていらっしゃる方も多いことと思います。

『魔女の赤い帽子』では、保管している掲載当時の写真原版から新しい版を起こしました。本の大きさは既刊の影絵絵本と同じで、藤城先生の影絵がいっそう引き立つよう、影絵の部分を『暮しの手帖』掲載時より大きくしています。品切れになって久しいモノクロ影絵の『お母さんが読んで聞かせるお話』からも1話を収録し、白と黒の濃淡が作り出す影絵の味わいも楽しむことができます。また、小学3年生以上で習う漢字にはふりがなを付けました。

この本の編集に携わったスタッフの一人は、藤城先生がカットを描いていた「すばらしき日曜日」という投稿ページの担当でした。「カットができ上がった」の連絡をいただくと大岡山の藤城スタジオへ走った者が、四半世紀のときを超えて藤城先生とまた本づくりをしました。藤城先生が長寿であればこその貴重な経験です。

藤城先生は今日もお元気で、創作意欲があふれています。先生の長寿をお祝いするとともに、100歳を超えてのさらなる新作を期待するものです。
(担当:岸上)

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新刊『新装保存版 自家製レシピ』刊行のお知らせ

2024年09月24日

買ってくるよりもおいしい。そして何より楽しいのです。
(新刊『新装保存版 自家製レシピ』刊行のお知らせ)

ソーセージやコンビーフ、なめ茸やツナ、焼き肉のタレや柚子こしょう、ジャムやマーマレードに干し柿……。家族みんなが好きな、ポピュラーな食品ばかり。
でも、「買ってくるのが当たり前」と思っていたこれ全部、ご自宅でもっとおいしく作れるんです。時間に余裕があるときに、1つ、2つからでも、ぜひ試してみてください。

どうして自分で作るとおいしいのでしょう?

その1
◎工場で作られるものよりも、フレッシュな出来立てを楽しめます。
また、自分や家族だけでいただくものだから、保存料も不要。素材そのままのおいしさを頬張りましょう。

その2
◎自分の好みに味を調整できます。
出来合いの食品は、決まりきった味を食べるしかありません。でも、一から自分で作ればアレンジは自由自在です。
「もう少ししょっぱくなければいいのに」とか「売ってるのはだいたい甘すぎるんだよね」なんて、もう無縁です。自分の「おいしい」感覚を大事に作りましょう。

その3
◎そして何よりも、楽しいのです。
「自分で作る」って、単純にクリエイティブで楽しいものです。時間を見つけて、ぜひ、遊ぶように楽しんでください。なんでも買って来れば済んでしまう便利な世の中だからこそ、自分の手を動かすことが、豊かさやうれしさを実感させてくれるはず。

レシピは、高山なおみさん、ケンタロウさん、飛田和緒さんに教わりました。ホームメイドで作るおかずの素や調味料、常備菜など27品と、その展開料理50品。

この本の中から少しずつでも、料理と食卓の楽しみを暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。(担当:宇津木)
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※本書は、2012年に刊行した別冊『自家製レシピ 秋冬編』を書籍化したものです。

花の個性ってなんだろう

2024年03月16日

取材終わりに、フリージアの花をいただいて帰ったことがありました。手のひらにも満たない小さな黄色い花が、殺風景な仕事机をぱっと明るくしてくれたことをよく覚えています。みずみずしい香りがして、柔らかい茎やつぼみもかわいらしく、そして何より、思ったよりもずっと長い間、咲き続けてくれたのです。調べてみると、フリージアは他の球根系の花と比べて長持ちしやすい品種でした。

花の個性はさまざまです。見た目の違いはもちろんのこと、「低温に強い」「茎が腐りにくい」といった扱いやすさの違いや、香りの強弱、枝が曲げやすいかどうかなど、飾るときに知っておくと便利な特徴もあります。
新刊『花と暮らし』では、そんな花の豊かな個性を知り、より美しくいけたり、より長持ちさせたりするための工夫を取材しました。

その一部をご紹介します。
●「花を美しくいけるための5つの基本」(22~31頁)
いけばな草月流で教える基本の「型」から、花や花器のバランスのとり方、花材の扱い方を学びます。

●「いただいた花束をいける」(32~41頁)
基本の型を踏まえつつ、生活空間に合わせたアレンジに挑戦します。今回は、花束を一つ用意して、そこから花を選んで組み合わせ、家中のさまざまな場所にいけました。

●「切り花を長持ちさせる方法」(42~49頁)
切り花がしおれるメカニズムを学び、基本のケアをご紹介します。

どの記事も、この春はもちろん、これから先もずっと役に立つ情報を選りすぐって掲載しています。気になったものから、じっくり試してみてください。自分の暮らしに合った花や飾り方が見つかるかもしれません。(担当:山崎)

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花と向き合う楽しみ

2024年03月15日

「押し花を始めると、身の回りのいろいろな花に興味が湧きます。四季ごとに変わる花々に触れていると、季節を追うのが楽しみになる。それは、言い換えれば生きるのが楽しみになることでもあるのです。」

取材のとき、そんなふうに話してくださった押し花作家の杉野宣雄さん。この言葉を聞いて、子どもの頃大好きだった「草花あそび」を思い出しました。シロツメクサで冠を編んだり、オオバコで相撲遊びをしたり。花を飾る楽しみを知った今より、当時の方が、花はより身近な存在だったように思います。そう感じるのは、かつての私が花一本一本と向き合えていたからかもしれません。

新刊『花と暮らし』では、押し花やボタニカルアートなどの手法を通して、花との向き合い方と、その楽しみをご紹介しています。見慣れたはずのパンジーも、じっくり向き合い、押してみると、これまで見過ごしていた形や色の美しさに気づきます。その発見と感動は、暮らしに彩りを与えてくれるのではないでしょうか。

さらに、今号では「花より団子」という方のために、お花見弁当のレシピもご紹介しています。藤井恵先生のアイデア満載の、お弁当三種の提案です。

今春は童心に返って、花とじっくり向き合う時間を持ってみませんか。この一冊が、そのお役に立てればうれしいです。(担当:須藤)

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別冊『花と暮らし』発売です

2024年03月14日

別冊『花と暮らし』発売です。
――別冊編集長より、新刊発売のご挨拶

自宅に花を飾るというのが、実は少し苦手でした。花はとても魅力的で部屋の中を明るくしてくれます。ただ、それだけに照れてしまうというか、「飾る」という特別感に気後れしてしまうというか……。そこで、少しだけ視点を変えてみました。
春になると、桜は空を染め、菜の花は畑を覆い、新緑は山を笑顔にします。その美しさを作っているのは一輪の花や、一枚の葉なのです。しかも色も形も微妙に違っていて、一つとして同じものはありません。花の色や形、葉の付き方、茎の曲がり具合……。それらを丁寧に見ていると、愛おしさが生まれてきます。いかに美しく花を飾るかも大切ですが、一本の花や一枚の葉と向き合う時間こそが、「暮らしに花を飾る」ことなのではないではないか、と考えたのです。

この本で紹介している、押し花やいけばな、ボタニカルアートなどは、じっくりと花を観察し、一本一本の特徴を把握することが大切です。もちろん美しい作品のためには技術や経験が必要ですが、真剣に花と向き合うことは誰にでも可能です。そして、花と向き合った時間は、暮らしの中で、とても貴重だと思います。
「人がいて、花をいけたいという思いがあって、手元に数本の花があれば、その花をいけることで表現が生まれます。いけばなは遠い存在ではなく、暮らしのすぐ近くにあるものなのです」
草月流第四代家元・勅使川原茜さんは、いけばなについてそう言います。

そしてもう一つ、茜さんは大切なことを教えてくれました。
「花をいけるとは『相手を思う』ことなのです。(略)素直な気持ちで、相手を思いながらいければ、どこに、どんなふうにいけてもいいのです」
家元のインタビューのため、私たちが伺った部屋のテーブルには、取材陣のために茜さんがいけた花が飾られていました。暮らしに花をいけるという取材の趣旨に合わせて、誰もが持っているようなワイングラスに、なじみ深いチューリップやスイートピーなどの花。それに茜さんが好きな真っ赤なグロリオーサ……。
まさに茜さんの言葉を表すような花でした。

別冊編集長 古庄修

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新刊『有元葉子 春夏秋冬うちの味』刊行のお知らせ

2024年01月24日

今週から発売の有元葉子さんの単行本をご紹介いたします。この本は、季節ごとの旬の食材を生かした、毎日のおかずのレシピ集です。そして、料理の作り方だけでなく、「食べることは暮らしの根幹」ということを真ん中に据えて編んだ一冊です。

「母から料理を教わったことはないけれど、今のわたしの料理の基礎は母の味です」
著者の有元葉子さんはそう話します。
「子どものころは、台所に立つ母のそばで『小さなお味見係』をしていたんですよ」と。
たとえばちょうど今のような冬の夕方、湯気の立ちのぼる鍋から、小さな里いもを菜箸に刺して渡してくれた思い出などは深く心に残っているそうです。「そんなふうにして、煮具合や味つけの加減など、母の料理が自然に身についていったのでしょう。味の記憶があれば、不思議と自然に作れるものです。そして、そんな『うちの味』があるって幸せなことだなあって思います」と有元さん。

みなさんには「うちの味」はありますか?
合わせ調味料やレトルト食品、出来合いのおかず。便利で助かりますが、そればかりでは、「うちの味」にはなりません。とは言っても、気持ちも時間も、料理に向けられない日があるのも現実です。
そんなときは、と有元さんは話します。
「全部の料理を手作りする必要はありません。ひと品でも作ったものを食卓に上げればいいのです。ときには外食や、買ってきたもので済ませる日があってもいい。でも、たいていの日は『自分で食べるものは自分で作る』という心持ちでいることが大事です」と。
だから、できる範囲で作ればいいのです。そして、旬の素材はそれだけでおいしいもの。料理はシンプルでいいのです。
「料理上手になるには、失敗することも必要です。私だって今も失敗ばっかり。でも、だからこそ『じゃあ、どうすればいい? 次はこうしよう』と考えるでしょう。それが大事なんです」

冒頭のお母様の料理の思い出や、こうした有元さんの「食」への想いなど、エッセイもたっぷり載った読み応えもある一冊です。また、大きなプロセス写真で、見るだけでも料理の手順がわかりやすいのもこの本の特長。ぜひ、この本のレシピをくり返し作って、いろいろとアレンジして、あなたの「うちの味」にしてください。(担当:宇津木)

本の概要はこちらからご覧いただけます。

『有元葉子 春夏秋冬うちの味』
暮しの手帖社オンラインストア限定企画

【特典1】
新刊の発売を記念して、有元葉子さんのサイン本をご用意しました。
先着50名様限定で販売いたします。
この機会に、ぜひお申し込みください。

【特典2】
オンラインストアからお申し込みの方には、送料無料でお送りいたします。
決済時に下記のクーポンコードを入力してください。
※1冊のみ有効。2冊以上もしくは他の商品と同時に購入される場合、クーポンは無効とさせていただきます。

コード:arimotokt75
(有効期限2月末まで)

ご購入は<暮しの手帖社オンラインストア>から。
特典は予告なく終了する場合がございます。あらかじめご了承ください。

理想の台所は、ささやかな工夫から

2023年12月06日

あなたにとって、「理想の台所」とはどんな空間ですか?

台所は料理を作る場で、要素と言えばコンロ・流し台・作業台・収納・冷蔵庫が基本でしょうか。役割も構成もシンプルですが、「理想の台所」がどんな空間か、具体的なイメージが浮かばないという方は案外多いかもしれません。

かくいう私も「小さな不満はあるものの、我が家はシステムキッチンだから仕方ない」と、恥ずかしながら、これまで台所と真剣に向き合ったことはありませんでした。

そんな考えを改めるきっかけになったのが、クリス智子さんのこんな言葉です。

「実際に使ってみて、たとえ、おや? と思うところがあったとしても、それはそれでOK。キッチンの特性に自分が合わせていけばいい」

クリスさんは、新刊『台所と暮らし』にて、「自分らしい台所」と「愛用の台所道具」を見せてくださった9名の内のお一人です。

先の言葉通り、クリスさんの「理想の台所」づくりは大らか。多少の不満があっても、便利な機能を加えるのではなく、基本的にはシンプルな方法で解決するスタイルです。例えば、ホームパーティーで、客人が自由にカトラリーを取れるように棚を配置したり、左利きのクリスさんでもストレスなく使える道具を選んだり、台所はささやかな工夫で溢れています。

「自分は台所でどう過ごしたいのか」「家族や客人にどう過ごしてほしいのか」。日々台所に立ちながら、考え、立ち止まり、微調整する。「理想の台所」のイメージは、そうした試行錯誤の中から見えてくるのかもしれません。

今、我が家では、台所をマイナーチェンジしています。近年の家族の変化に合わせ、食器を移動させたり、動線を見直したり。正直トライ&エラーの繰り返しですが、それ自体が「台所との対話」のようでなかなか楽しいものです。

まずはすぐにできそうなものを一つ、見直してみませんか? 案外小さな工夫が「理想の台所」への大きな一歩になるかもしれません。(担当:須藤)

※詳細はこちらからご覧いただけます。

自分らしい台所

2023年12月05日

自分らしい台所
――別冊編集長より、新刊発売のご挨拶

最近、肩に痛みがあるので布巾掛けの位置を10cmほど低くしました。もともと、猫が飛びついて悪戯しないように高い位置にあったのを、「お互いもういい年なのだから」と猫と自分に言い聞かせ、布巾を楽に干せる位置まで、低くしたのです。
たった10cmのことですが、痛みを伴った作業がなくなり快適になりました。

暮しの手帖社創業者の大橋鎭子は、取材などで得た知識をもとに創意工夫に満ちた台所を作り上げました。すぐに手に取れるように壁に吊るされた鍋、一升瓶の出し入れがしやすい斜めに仕切りがついた引き出し……。「しずこさんの台所」を訪れた編集者の一田憲子さんは「『ここにコレがあったらいいな』という主婦の知恵が、生き生きと見えてきます。」と評しています。そして最後は「台所に必要なものは愛情と合理性という一見真逆な、ふたつの視点なのかもしれません。」と締めています。

住まいの中でも台所は特殊な場所です。そこには多くの働きを求められます。
料理を「効率」よく、たくさんの食器や器具などを「収納」し、いつも「清潔」で……。さらに、居心地がよくなるような「こだわり」も大切。
今回の特集では暮らしを大切にしている9人の台所を「効率」、「清潔」、「収納」、「こだわり」という4つの視点で取材しています。それぞれの方の考え方や使い方に合わせた台所は、きっと、参考にしていただけると思います。
 
すべての人に満点な台所はありませんが、自分にとって満足できる台所を目指すことはできるはずです。小さな不便や不足を放置せず、ひとつひとつ解消してゆけば、自分にとって快適な台所に近づくのです。大規模なリフォームをするまでもなく、調理器具の収納場所を変えたり、引き出しの中を見直したり、必要な場所にフックを付けたり……。たとえば、布巾掛けの位置を10cm下げるだけでも台所は使いやすく、「自分らしい台所」になるのです。

別冊編集長 古庄 修

※詳細はこちらからご覧いただけます。

自分から開く

2023年11月25日

自分から開く
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
祝日の一昨日、浅草の雷門通りを歩いていたら、豪勢な熊手の御守りを肩にかついで歩く人の姿がちらほらと。早いもので、鷲(おおとり)神社の「酉の市」でした。去年もこんな光景を見たことをありありと思い出すと、一年は本当にあっという間なんですが、若い頃のような焦燥感ではなく、ほっとする思いが湧き上がってきました。
「この一年、それなりにいろいろあったけれど、無事に過ごせたのだから、まあよかったじゃないか」というような。
世界のあちこちで続いている争いに目を向けると、ただ普通に暮らせることが、いっそうありがたく思えてくる。みなさまは、どんな思いを胸に今年を振り返っていらっしゃいますか。

今号の表紙画は、絵本作家のみやこしあきこさんによる「雪の街」。降りしきる雪のなか、車でどこかへ向かうクマさん。助手席には、プレゼントらしき赤い紙袋。
編集部のある人が、「ソール・ライターの赤い傘の写真みたいな雰囲気だね」と感想をもらしましたが、言い得て妙です。
『暮しの手帖』は年に6冊。どの号も力を入れてつくっていますが、この年末年始号は、とりわけ力こぶができるのです。いつもよりも、ゆったりとした心持ちで読んでくださる方が多いかもしれない。ふだんは離れて暮らす家族や、久しぶりに会う友人に、何かおいしいものをこしらえてあげたい、そう考える人もいらっしゃるだろう――そんなことを想像しながら企画を考え、いざ撮影するのは夏の暑い盛りです。一つひとつの記事については、それぞれの担当者が来週からご紹介しますね。

かくいう私は、「わたしの手帖 笑福亭鶴瓶さん」を担当し、7月初旬、大阪の帝塚山(てづかやま)へ向かいました。帝塚山は高級住宅地として知られているようですが、私が訪ねたのは、ごく庶民的な街並みにあるこぢんまりとした寄席小屋「無学」です。
もしかしたら、鶴瓶さんの落語家としての顔をご存じでない方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはず、鶴瓶さんは20歳で六代目笑福亭松鶴(しょかく)師匠に弟子入りするものの、師匠からはまったく稽古をつけてもらえず、本格的に落語に取り組んだのは50歳を過ぎてから。まだ20年ほどのキャリアなんです。
「無学」は、もとは松鶴師匠の邸宅で、師匠亡き後に鶴瓶さんが買い取って寄席小屋に改築しました。若い頃の鶴瓶さんは、すぐ近くのアパートに住みながらここに通い、新婚生活もこの街で送ったといいます。
なぜ師匠は鶴瓶さんに稽古をつけてくれなかったのだろう?
鶴瓶さんが「無学」という場をつくり、24年もの間、地道に運営してきたのはなぜ?
そのあたりはぜひ記事をお読みいただくとして、取材でとくに心に残ったのは、鶴瓶さんの「人に対する垣根の無さ」でした。
はじめに「こんにちは、このたびはありがとうございます」とご挨拶すると、「あなた、前にも会ったことのあるような顔だね」とほがらかに鶴瓶さん。その一言で、場の空気はふっと和み、取材の緊張がほぐれます。
撮影では、照りつける日差しの下、帝塚山をぐるぐる歩き、20歳の頃に住んでいた可愛らしいアパートや、新婚時代に暮らしたアパートなどを案内してくださったのですが(前者は63頁にちらりと写っています)、道ゆく人が「あ、鶴瓶さん!」とたびたび声をかけてきます。鶴瓶さんは一人ひとりと自然体で会話を交わし、写真を求められれば応じ、なんだかとてもフラット。そう、NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』のロケシーンそのものなんです。
「人といかに出会って、関わっていけるか。それが生まれてきた意味だと思う。だけど人生は短いからね。一番手っ取り早いのは自分から開くことだと思っているんです」
そう鶴瓶さんは語ります。
確かにその通りだなあ……と胸にしみたのは、私もそれなりに年齢を重ね、「あのとき、どうしてあの人にこれができなかったのだろう」というような後悔があるからかもしれません。
自分から開く。
山あり谷ありの人生を、人との結びつきを大切にしながら歩み、多才なキャリアを積み重ねてきた鶴瓶さん。「格言を言うぞ」というような肩ひじ張ったところは一つもなく、それでいて、「なるほどなあ」と胸に落ちる格言がぽんぽんと飛び出す。年末に、来し方行く末に思いを馳せながらお読みください。
ちなみに私は12月1日、池袋で催される鶴瓶さんの独演会を心待ちにしています。年末だから、夫婦の結びつきが胸を打つ「芝浜」が聴けるかな。鶴瓶さんの落語は、ふだんの鶴瓶さんの語りと変わらずあったかく、江戸の世界にすっと入り込めるのです。

さて、今号は特別付録として、トラネコボンボンさんの「世界を旅する猫のカレンダー」をつけました。
トラネコボンボンさんには、今年一年の目次画を手がけていただいたのですが、毎号どっさりといろんな絵が届き、アートディレクターの宮古さんが頭をひねってデザインする、その繰り返しでした。カレンダーも同じで、12カ月分を大幅に超える点数を描いてくださり、さあどれを選ぼうかと、何度か組み替えて悩んだものです。ぜいたくな悩みですね。
来たる年も、みなさまの暮らしに小さくとも温かな灯りをともせる雑誌がつくれるよう、編集部のみなで頑張りたいと思います。少し早いのですが、どうぞお身体を大切に、よい年末年始をお迎えください。今年もご愛読くださり、本当にありがとうございました。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

手話をことばとして生きる、写真家と家族の物語 『よっちぼっち 家族四人の四つの人生』刊行のお知らせ

2023年11月22日

人間は決してひとつになれない
そのことを本作は、
悲しいこととしてではなく、
うつくしいこととして書いている 
西 加奈子(小説家)  ――帯文より

今もっとも注目を集める写真家、齋藤陽道さんによる人気連載が待望の一冊になりました。

齋藤さんは「聞こえる家族」に生まれたろう者、妻のまなみさんは「ろう家族」に生まれたろう者。
そんなふたりの間には、聞こえる子どもがふたり――。
一家はそれぞれの違いを尊重しながら、手話で、表情で、体温で、互いの思いを伝え合って生きています。
本書は、美しい写真とともに紡がれたろうの両親による育児記であり、手話で子どもと関わり合うからこそもたらされた、気づきと喜びの記録です。

カバーの四つの白い器の模様には、ホットスタンプ(加熱型押し)を施しており、中表紙が薄っすらと透けるデザインになっています。
ぜひ、お手に取ってご覧ください。(担当:村上)

※目次はこちらからご覧いただけます。


暮しの手帖社 今日の編集部