食べることに、ちょっと疲れたときも
(94号「瀬尾新聞」)
あれは3月下旬のこと。私は真夜中の2時半に自宅アパートを出て、寝静まった町をひたひたと歩き、ある方のお宅に向かいました。なんとなく、息をひそめて呼び鈴を押します。ピンポン……。
「はあい」と小さくこたえて顔を出したのは、料理家の瀬尾幸子さん。瀬尾さんと私は、東京・西荻窪で暮らすご近所どうしなのです。私たちは小声で「おはようございます」とあいさつし合い、駅前のロータリーへ。そこでロケバスに乗り込むと、寝ぼけ眼をこすりつつ、三浦半島の金田湾へ向かったのでした。
なぜ、こんな時間に発たねばならなかったかといえば、勘のいい方はおわかりでしょう。そう、朝市です。金田湾の漁港そばで開かれている、小さいながらも活気に満ちた朝市が、このたびの取材のお目当てだったのです。
今号から始まった新連載「瀬尾新聞」は、瀬尾さんがいわば記者となって、好奇心の赴くままに「食まわりのあれこれ」を取材。そこから発想したいろんな料理を、読者のみなさんもつくって味わえるよう、わかりやすいレシピ付きでご紹介します。
今回は、朝市で「狩り」のごとく買い物を楽しみ、とれたてのワカメやエボダイで超シンプル料理をこしらえるほか、インド人のハサンさんと「インドの家庭料理の謎」をテーマに対談し、さらには、40年来の相棒である文化鍋の愛すべき点を解説します。
根底にあるのは、「食べること、楽しんでいますか?」という問いかけです。外食や美食ではなく、もっと身近でささやかな「食」のなかに、瀬尾さんはとっておきの楽しみをいくつも見出せるのです。きらきらとした目を見開き、素直な好奇心を全開にして。
食べること、料理することにちょっと疲れたときにも、開いていただきたい「新聞」です。そしてぜひ、瀬尾さんならではのコツが詰まった塩むすびをお試しください。「ご飯って、おいしいものだなあ」と、しみじみうれしくなりますよ。(担当:北川)