『グリムのむかしばなしⅠ・Ⅱ』
ワンダ・ガアグ 編・絵 松岡享子 訳
のら書店 各1600円+税 装釘 タカハシデザイン室
「ヘンゼルとグレーテル」「シンデレラ」「ブレーメンの音楽隊」などの懐かしいグリム童話。漫画も含めて、いままでにたくさんの本が出版されています。本書は、昨年の秋、新しく松岡享子さんの翻訳で出版されたグリム童話集です。英語の原本『Tales from Grimm』は、絵本『100まんびきのねこ』などで知られる、アメリカの画家で絵本作家のワンダ・ガアグがドイツ語から英語に翻訳して、1936年に出版されました。
過日、松岡さんのトークショーを聴く機会に恵まれました。
そこでうかがったお話によると、グリム童話集は、もともとドイツのグリム兄弟が昔話を集めてまとめたものですが、19世紀中ごろに現在の形にまとまり、各国で翻訳されています。ガアグは両親ともボヘミアからアメリカに渡った移民で、親類も近くに住んでいました。幼いころに、叔父や叔母、祖父母の語る昔話を聞きながら育ち、苦学の末画家になり、絵本も制作するようになります。
ガアグは、自分がなじんできたお話にくらべて、英文のグリム童話は堅苦しくて、想像力に欠けるものだと感じて、グリム童話16編を英訳し、挿絵を描いて『Tales from Grimm』を作りました。松岡さんが1961年に渡米した時には、ガアグは亡くなっていましたが、当時のアメリカでは、お話を覚えて語るストーリーテリングが盛んでした。この本は高く評価されていて、松岡さんもこの本を使って、ストーリーテリングをしたそうです。
画家であるガアグの文章は、その場の情景が浮かぶ描写で、文章の調子がよく、語りかけるような口調で、自力で生きる女性が登場するなど、それまでのグリム童話とは違っていました。シンデレラだって、継母たちがお城に出掛けると、体を洗ったり髪をとかしたりと自分で身づくろいをしてから、妖精の力を借りるのです。
絵はモノクロですが、怪しい森の奥にあるお菓子の家、忌まわしい魔女や幸せそうに眠る子供など、表情豊かに、物語の中へと誘いかけてきます。松岡さんの翻訳も、声に出して読みやすく、読んでいること自体が心地よくなります。
原本は1冊でしたが、2冊に分けたのは、子どもが読みやすい字の大きさで、手に取りやすい厚さにしたいとの松岡さんの要望からだそうです。
各巻に入っているお話です。
Ⅰ「ヘンゼルとグレーテル」「ねことねずみがいっしょにくらせば」「かえるの王子」「なまくらハインツ」「やせのリーゼル」「シンデレラ」「六人の家来」
Ⅱ「ブレーメンの音楽隊」「ラプンツェル」「三人兄弟」「つむと杼と縫い針」「なんでもわかる医者先生」「雪白とバラ紅」「かしこいエルシー」「竜とそのおばあさん」「漁師とおかみさん」(高野)