「本を作らせていただけませんか。これまで教えていただいたレシピを、もれなく、たくさんの方にご紹介したくて……」と、神田裕行さんにお願いにあがったのは、昨年の暮れのことでした。
神田さんは、ミシュラン三つ星を10年連続で獲得する日本料理の名店「かんだ」のご主人で、『暮しの手帖』で6年にわたって「おそうざい十二カ月」を指導してくださった、その人です。
神田さんは、にこにこと微笑んで、こうお答えになりました。
「よろこんで。
でもね、 “もれなく”なんて、欲張るのはやめませんか?」
欲張る……? しばし思考が停止した私をよそに、神田さんはこう続けます。
「だって、得意料理なんて、五品もあれば充分でしょう?
僕のお母ちゃんだって、そうでしたよ。
みんな、日々、レシピを増やそうとして、『ナントカのナントカ風』みたいな新しい料理に挑戦します。でもね、ふつうの料理を五品、ほんとうにおいしくつくれたら、『料理じょうず』って、胸を張ってええと思うんです。
だったら、みんなが味を想像できるような、ほっとする味わいの料理を厳選して、それを全部、三度は作ってみてもらいませんか。そして、『わが家の味』にしてもらいたいんです。」
驚きました。実は、神田さんのレシピ集はまだ世になくて、この本が初。できるだけたくさん、レシピを載せたいと考えてもよいのに……。「家庭で料理する人」のために、と真剣に考えてくださったことが、とても嬉しかったのです。
それから、「ほんとうに役立つ」レシピ集はどんなもの? 料理に自信がない人の、つまずきのポイントはどこだろう? 料理するたのしさを伝えるには? と、思考錯誤を重ね、神田さんならではの「毎日食べても飽きないおそうざい作りの秘訣」、「思い出のこもった料理レシピ」、「エッセイ」などを大幅に加筆していただいて、『神田裕行のおそうざい十二カ月』ができました。
本誌では、そんな神田さんの想いと、暮しの手帖社の本作りの様子が垣間見える記事をご紹介しています。
今はまだ自信がないけれど、「料理じょうずになりたいなあ」、と願う(私のような)すべての方に、ぜひお読みいただけたら、とてもうれしいです。
(担当:長谷川)
単行本の詳細は下記よりご覧いただけます。
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/books/b_1178.html