50年前に作られたカードをめぐる、母と息子の物語

2023年07月27日

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50年前に作られたカードをめぐる、母と息子の物語
(25号「お母さんのお弁当ふろく」)

まずはこの写真をご覧ください。手作りのかわいらしいカードの数々。「昭和」を感じる懐かしいテイストです。一体、何だと思いますか?
これらは今から50年ほど前、現代詩人で、細胞生物学者でもある田中庸介さんのお母さんが、庸介さんに持たせる幼稚園のお弁当のおまけとして作っていたもので、その名も「お弁当ふろく」。「架空の店のお品書き」という設定で、その日のお弁当の献立が書かれ、2年間で157個も作られました。
庸介さんの母・美子さんは1933年、長崎で生まれ、出版社の装幀室に勤めました。その手腕をいかして作ったお弁当ふろくは、凝った仕掛けが特長。とぼけた表情のモグラが飛び出してきたり、豆本仕立てになっていたり、ポストの中に小さな手紙が入っていたり……。実物を手にすると、写真で見る以上にその工夫が感じられて、見飽きません。一つひとつを見ていたら、あっという間に日が暮れていました。
美子さんはどうして、お弁当ふろくを作り続けたのでしょうか? 美子さんはすでにお亡くなりになっているので、残された日記が、その謎を解くヒントになりました。膨大な数の日記を読んでいると、まるで美子さんと対話しているような気持ちになり、身近な存在に思えてくるから不思議です。やがて、美子さんがお弁当ふろくを作った動機や、そこに込められた思いが浮かび上がってきました。それは、庸介さんも驚く母の姿でした。
この8月、美子さんの「お弁当ふろく」と装幀の仕事が、東京の2つのギャラリーで展示されることになりました。実物をご覧いただける貴重な機会です。ぜひ足をお運びください。(担当:平田)

◎「美子さんのお弁当ふろく展」 8月18~28日(会期中休みあり)
ギャラリーカドッコ(東京都杉並区西荻北3-8-9 TEL:03-6913-7626)

◎「美子さんの装幀のしごと」 8月18~20、25~27日
Gallery装丁夜話(東京都渋谷区神宮前1-2-9 原宿木多マンション103 TEL:03-3405-8983)

詳しくは、https://www.instagram.com/obentoufuroku/をご覧ください。


暮しの手帖社 今日の編集部