ご好評いただいた別冊『健康と暮らし』に続き、『食事と暮らし』が発売されました。
今回は巻頭に1960年の『暮しの手帖』から「3度の食事」の文を掲載しています。
3度の食事人生かりに70年として、日に3度の食事とすれば、
お互い息をひきとるまでに、これでざっと8万回は食べるということになる。
その8万回のなかには、
遠足でとりかえっこしたにぎり飯もあれば、
恋人とさし向いでフォークを運んだランチも入っている。
病人の枕許でそそくさと片づけたサンドイッチも、
朝寝坊してあわてて流しこんだ牛乳も、
借金の言訳を考えながらすすったもりそばも、
受験勉強の図書館でかじったトーストも、
先生の目をぬすんで机の下で開いた弁当も、
サイフの中を暗算しながら百貨店の食堂でたべたラーメンも、
となりのおばさんからお裾分けの大根の煮〆も、
故郷へ帰る汽車のなかの冷えた駅弁も、同窓会のとんかつも、
スキー宿のカレーライスも、お寺で出された芋がゆも、
腹立ちまぎれに茶わんをこわして皿でたべた飯も、
昇給して一家そろってつついたとりなべも、
防空壕にしゃがんでたべたいり豆も、
あれもこれも、おもえば8万回のうちの1回ではある。
これは『暮しの手帖』が、独自に約1000世帯に食事調査を行い、その結果をもとに、まとめられた人気企画の冒頭です。
この文章に触れた時、感じたのは、食事は人生の同伴者であるということ。長い人生、山あり谷あり、ときには川を渡ることもあります。どんなときでも3食は1日の節目であり、食事を重ねることで、人生は長く続いていくのです。いままで、当たり前に思っていた3度の食事が、実は共に人生を過ごす存在だと気づかせてくれました。
それにもう一つ、1回の「おいしい」を8万回重ねることの大変さです。どんな時代でも、どんな状況でも、3度の食事が(しかも、おいしく)いただけるのは、食材を提供する人、料理する人、自分の健康、そして安心して食事ができる環境が整ってこそです。とくに家庭の料理は家事の一環です。料理しながらも、家族の健康や後片付け、家計のことなど、さまざまなことを考え、そのうえで、1日3回、何十年もおいしい食事を作り続ける……。本当に大変なことだと思います。
今回の特集では料理家に、自分の家族のために作るときの「3食の工夫」を教えてもらいました。それは、いまでも意識せずにやっていることや、簡単すぎて工夫とは言えないことも多いかもしれません。ただ、これらの小さな工夫をヒントにして、それぞれの家庭に役立つようにアレンジ、もしくは新たに作っていただければと思います。
それだけではありません。実は料理を食べている人にも読んでいただきたいのです。毎日の食事に「あなたの暮らしに合った工夫」がいくつも重ねられていることを知ると、もっと「おいしく」、「ありがたく」感じられるのではないでしょうか?
別冊編集長 古庄 修