第5回 人は何のために学ぶのか

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『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』特別企画 和田靜香さん×井手英策さん
「今日よりも明日はすばらしい」。すべての人が、そう信じられる社会にするために。

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2021年、フリーライターの和田靜香さんの著書、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』が大きな話題になりました。私たちは同じ年に、『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』という本を出版。庶民の視点から政治、経済を見つめた2冊の本の共通点は、経済学者の井手英策さんの存在です。

『お金の手帖Q&A』では、井手さんにこの本の土台となるいくつかの章の解説をお願いしました。他方、『時給はいつも最低賃金、~』の文中には、井手さんの著書の引用が幾度も出てきます。「和田さんと井手さんが話したら、きっと胸に迫る、深い議論になるのでは……」そう感じた私たちは、お二人の対談を企画。

税金について、民主主義について、学ぶことの意味について、思いもよらない方向にどんどん膨らんだお二人の対談を、全5回で、たっぷりお届けします!

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◆人の意識は変えられない、けれど…

和田 年末年始に「年越し大人食堂(※)」を手伝いまして、来場者に「生活相談を受けて、生活保護の利用を考えてみませんか」ってお伝えしても、「いやいや生活保護なんてとんでもない」「自分の責任なんだから自分でなんとかするよ」って。けど結局、大人食堂に並んで、無料の食料をもらわないと今日食べるにも困る状況で。憲法25条があって、生活保護法があって、権利なんですよ、使っていいんですよと言っても、「人様のご厄介になるのは恥だ」と思っている限り、使おうとしないんですよね。どうにかしてそこを変えたいんですけど、そもそも権利、人権という意識が日本人に根付いていないのなら、すごく難しいですね、意識を変えていくことは。
※コロナ禍の年末年始、収入源や失業などで生活に困っている人に向けて、反貧困ネットワーク 新型コロナ災害緊急アクション・聖イグナチオ教会福祉関連グループ・つくろい東京ファンド・認定NPO法人ビッグイシュー基金などが協働で開催。お弁当や生活用品の提供に加え、生活や医療についての相談会も行われた。

井手 意識は変えられないですよ。っていうか、「意識を変えるべきだ」って、すごい怖くないですか?

和田 やっぱり、そうですか……。

井手 「私はあなたの意識を変えられる」、その発想って、強制、暴力と紙一重です。

和田 ああ、そういう考えはなかったでした。

井手 自分たちの言っていることが正しくて、必ずこのように意識が変わらなければならないって思っているとしたら、それっておっかないですよね。僕は、人間は人間を幸福にできるほど強くないし、人間が人間の意識を変えられる、とは思わない。だけどね、結果的に、変わることはあると思います。

和田 結果的に、ですか。

井手 そう。人間を幸福にはできないけれど、幸福になりたくて、もがき苦しんでる人たちの「支え」なら作れると思う。そのために何が大事かと考えていくと、暮らしの安心じゃないか、と僕は思うんです。

和田 暮らしの安心……。暮らしの基本的なところを助けてもらえたら、いいかもしれません。井手さんは「ベーシックサービス(※)」を活用した社会を提唱されていますね。
※井手さんが構想する、社会保障の仕組み。医療や介護、教育など生きる上で必要なことを、所得制限を設けず、すべての人々に、現金ではなくサービスとして提供するという政策提案。

井手 病気をしても、介護が必要になっても、障がい者になってケアが必要になったとしても、さらに義務教育の給食費や学用品だって、大学の教育費だって、お金がかからない、それがベーシックサービスの社会です。ベーシックインカムは生活のための現金をみんなに配る、っていう考え方ですよね。でも、これだと、べらぼうなお金がかかってしまうんです。

ベーシックサービスは生きていくうえで必要なことを、現金ではなく「サービス」で提供する、という仕組み。医療、介護、教育、障がい者福祉といったサービスを全員タダにしよう、という提案です。これなら予算は少なくてすみます。だって、保育所がタダになったからって、和田さん入り直さないでしょ? いらないから(笑)。でも、ベーシックインカムはみんなにお金を配らないといけないから、高くつく。

和田 そうなったらどんなにいいだろう……と思いつつも、本当にそんなことが実現できるのかな、とも思ってしまうんですが。

井手 消費税が10%になって、幼稚園と保育園が、保護者の収入とは関係なしに、タダになりましたよね。大学の授業料も、低所得者層だけではありますが、タダになりました。

和田 なりました、はい。

井手 できるんですよ。消費税を16%まで上げれば、先ほど言ったことはすべて実現できます。

 

◆消費税は貧しい人の負担が大きい?

和田 う~ん、16%……。井手さんの本に「消費税が16%になったとしても、先進国の平均並みの税率に過ぎない」と書いてありましたね。他国に比べればそれほどの負担ではないというのはわかるのですが、ただ、この物価高です。賃金が上がらない状況も続いていて。こんな状態で消費税が増税されたら、「生活が今以上に苦しくなるんじゃないか」と、不安になる人がたくさんいると思うんです。

井手 うん、そうですよね。増税をするべきかどうかは、有権者を中心としてよくよく話し合い、その使い途も議論したうえで、決定されなくてはいけません。「生活が苦しくなりそうで不安」という感情は大切です。けれどだからこそ、増税によってどれくらいの負担が増えるのか、そしてどんな還元があるのか、冷静に情報を集めてほしい。そうでないと、ずっと「税金っていや」という感情に振り回されてしまいます。

例えば、消費税は貧しい人の負担が大きいと思っている人が多いですが、それは話が単純だと思うんです。ちょっと考えてみてください。どう考えても、お金持ちの方が払っている消費税は多いはずでしょ? だって使う額が大きいんだから。日本人の所得を金額ごとに5段階に分けて考えてみましょうか。消費税を5%減税したとすると、最も所得が低い2割の人には、大体年間で7~8万円返ってきます。そして最も所得が高い2割の人には、年間22~23万円返ってくる計算になります。

和田 消費税を減税すると、お金持ちがもうかるのか。

井手 僕の提案には、ベーシックサービスに加えて、失業手当の充実や、2割の低所得層に月2万円の住宅手当を支給することも盛り込んでいます。その時点で、消費税で払う額より、もらう額のほうが大きくなるんです。

和田 住宅手当、私はそれが一番欲しいです。都内の一人暮らし、家賃が高くて本当に辛いので。

井手 先進国のなかで、日本の家賃補助はもっとも貧弱なんです。単身者や貧困世帯が増えていますから、住宅手当の導入は本気で考えるべきです。

和田 増税するのは、消費税でなくてはダメなんでしょうか? 例えば法人税をもっと増やすとか、お金持ちに課税するといった方法では、ダメなんですか?

井手 お金持ちや企業への課税も、同時に行うべきです。けれど一番税収が見込めて、しかもみんなにかかる負担が少なくてすむのが、消費税です。消費税率を1%上げると、約2.8兆円の税収増になりますが、年収1237万円超の富裕層の所得税を1%上げても、1400億円程度の税収増にしかなりません。法人税率を1%上げたとしても、5000億円程度の税収増です。消費税なしのベーシックサービスだと、所得税、法人税はとんでもない税率になるでしょうね。

和田 なるほど。でも、あと一つ、すごく危惧しているのは、今の世の中、みんな卑屈になっていて、「私は子どももいないし病気もしていないし、全然得しない。社会保障の恩恵が受けられる人はズルい」とか、そういう意見が出てきてしまうんじゃないかな、と。

井手 今は恩恵がないように思えても、先のことはわかりませんよね。将来自分が病気になったり、障がいを負ったり、年をとって介護が必要になるかもしれない。そのときにお金の心配が一切いらないことが、どれだけ安心か。ベーシックサービスに所得制限は設けません。所得に関係なく、みんなにもたらされる安心です。

和田 みんなが安心って、すごくいいですね。公平感がある。私はずっとバイトで生きてきて、お金がない時って、本当に毎日が不安なんです。毎日、毎日お金のことばっかり心配して生きている。で、毎日が絶望なんですよね。その中で生活するって本当に大変で。だから次の仕事、次の仕事というふうに追われて、仕事が雑になっていって。

井手 悲しいけれど、自分を安売りしないと生きていけないんですよね。

和田 そう、まさにその通りで、やっすい仕事を死ぬほどして、でもそうしなければ生活が実際成り立たなかったから。

井手 この国って働くと貧乏になる国ですよね。非正規でダブルワーク、トリプルワークやっても、生活保護の受給額のほうが多いってことが現実に起きている。

和田 そうそう、だから、みんな生活保護を利用している人を叩くんです。

井手 おかしいでしょ。生活保護費を下げろ! じゃなくて、賃金を上げろ! って怒るのがふつうですよ。

和田 おかしいです。お互い苦しんでいるのに、弱者がさらなる弱者を叩くっていう。

井手 だからね、僕は暮らしの経費を軽くすることによって、非正規でも頑張って働けば十分に生きていける世の中をつくりたい。そうすると子どもも持てる。お金がかからないから。

和田 そうあってほしいです。

okane_0813-2暮しの手帖別冊『お金の手帖Q&A』の誌面より。

 

◆当たり前の、人間らしい暮らしを送りたいだけ

井手 そういう社会になると、大人たちが子どもを受験勉強させようと思わなくなる。

和田 へえ~。

井手 受験勉強ってなんでやらせるんだと思います? 子どもを大富豪にしたいから? 違いますよね。いい大学に行って、いい会社に入って、安心して生きていってねっていう、大人からのメッセージです。

和田 そうですね。

井手 けど、そんなことしなくても安心できる世の中になれば、「好きなことやりな」って子どもに言ってあげられると思いません? 若い時は大事なんだから、やりたいことやんなきゃダメだよ、いろんな人と会っていろんなこと経験してきなって、言いたくなるでしょ? それが大人の本音だと思う。

和田 外国行ってこい、とか。

井手 そうなるわけですよ。そういう社会に変えていくべきだと思う。で、定時で帰れる社会になりますよ。だって、そんなに必死に稼がなくても生きていけるから。もう、会社の言いなりにならなくていいから。最悪、上司とケンカして失業したって、ちゃんと手当や家賃補助が出るんだから。

和田 あー、ほんとですね。どんなに楽だろうか。想像するだけでうれしくなる。

井手 そこが大事。そうすると家族で一緒にスーパー行って、みんなでごはん作って食べて、今日会社でこんなことあって、学校でこうだったんだよね、って、おしゃべりだってできるでしょ? 土日に無理やり家族の思い出作りに旅行とかしなくていいんです、毎日語り合っているから。すると土日に地域活動に参加したり、ボランティアをしたり、いろんな余裕ができるようになると思いません?

和田 政治活動だってできる。結局、私たちが政治や経済を考えないのって、考える余裕がないからですよね。

井手 間違いなくそうですよ。

和田 私も、ライター業とバイトのダブルワークの時は、ワーッと原稿を書いて、でも夕方になったらバイトに行かないといけない。夕方5時から夜10時まで働いて、帰ってきたらもう疲れてニュースも一切見ないし、新聞なんてもちろん取ってないし。

井手 そういう生活で、たとえばスーパーで野菜買って調理して体にいいもの食べますかって話ですよね。食べられるわけないじゃないですか。

和田 面倒だから、出来合いのおかずを買ってきたり、揚げ物ばっかりとか。

井手 で、健康を損ねるじゃないですか。そうすると自己管理もできないダメなやつって言われちゃう。健康ぐらい自分で管理しろよって。それはどう考えても違うでしょ。貧しいってだけで健康管理さえできない社会のほうが間違ってる。

和田 私はバイト終えると夜中までやってるスーパーに行って、値下げしたやっすいものを買って食べて、どんどんどんどん悲しくなる、そういうサイクルでした。

井手 何度も言いますけど、ほとんどの人は、大金持ちになりたいわけじゃないですよ。当たり前の、ふつうの人間らしい暮らしを送りたいって思ってる。そんなの真っ当な要求じゃないですか。

和田 ほんとに、ほんとに、本当にそうです。当たり前に暮らしたいだけなんです。

井手 今までの日本では、じゃあその真っ当な要求を実現するためにみんなの所得を増やしましょうと言ってきたわけですよね。でも、それができなくなっちゃった。アベノミクスであれだけの景気刺激策をやったのに、おまけに五輪景気まであったのに、平均で1%しか経済成長しなかったんですから。

和田 アベノミクスで2%のインフレ目標って言ってたのに、達成できませんでしたね。

井手 それくらいの成長では、貧しい人たちの暮らしはラクにならないんです。本当に貧しい人たちの立場に立って考えようよ、と言いたいです。

和田 本当に、そう願います。

井手 本当に貧しい人の立場に立って、税金という道具を使いこなしてね。

和田 「税金という道具」、名言ですね。

井手 最後にひとつ、いいですか? 対話の中で、和田さんが「知ることが大事」と言われましたよね。知るって、学ぶということですよね。僕たちは「何のために学ぶのか?」っていうことを、考えなくちゃいけないと思う。いい大学に入るため、いい会社に入るためじゃないんです。絶対に違う。僕たちは、権力から自由になるために、学ぶんです。このことを僕たちは知っておかないといけない。

和田 権力から自由になるために、学ぶ。そう言われたら、がぜん学ぶ気持ちになりますね。

井手 要するに、知らないとだまされるんですよ。なんで大学に行くかというと、高い教養を身につけて、国家権力の乱用を阻止するためです。僕たちが精神的に国家から自立するために、学ばなければいけないんです。だからベーシックサービスの中に、大学無償化は必要なんです。

和田 貧富の差は関係なく、誰もが等しく学ぶ機会を得ることですね。

井手 そう、権力を監視するべきです。僕は学生たちに何かを教えたいんじゃありません。試験でいい点をとって欲しいわけでもありません。権力が僕らをだまそうとした時に、「それはおかしい」と異議申し立てができるようにする、これが大学教育の究極の目的です。

和田 学ぶことの大切さは、身をもって感じています。自分の抱えている問題の根元がどこにあるのか、国家や政治の問題だってことがわかったら、気持ちがラクになりました。それまでは、悪いのは私だ、私が駄目だからだと自分を呪い続けていて、もう「明日が不安」というより、「今日が不安、生きていかれない」という毎日だったんですが、そこから少し解放されたんですよね。学ぶって、本当に大事なんだなって、実感して。

井手 愉しいんですよ、本当はね、学ぶってことは。
今年からね、近くのお寺で「みんなの学校」という試みを始めたんですよ。もうね、リアル寺子屋ですよ(笑)。

和田 誰もが行ける、いい名前です。

井手 僕が住んでいる小田原市に、さまざまな分野で活躍している実践家がたくさんいるんです。そんな大人たちの姿を、子どもたちに見てほしいんです。ふつうに学校に行っていると、似たような世帯収入、似たような偏差値の子たちで寄り集まってしまうけど、この場所はそんなこと関係なく、例えば生活保護利用世帯の子どもであれ、みんなごちゃまぜに集まれる場所にしたい。でね、いい大学行かなくたって、こんなに愉しい生き方があるんだよ、って伝えたい。

和田 ああ、すてきですね~。

井手 よく「居場所づくり」で子どもに勉強を教えますよね。それも大事だけど、結局、いい成績・いい大学という枠組みの中でものを考えることになる。だから貧しい家庭の子どもはどうせ塾に行けないからダメだ、って話になっちゃう。そこを超えてほしいんです。いろんな生き方を認め合う。多様性ってそういうことでしょ? 知ることによって開かれていく世界っていうのはたくさんあるから、「大学=就活一択」なんて世の中はおかしいんです。「生き方を選ぶ」っていう当たり前の大切さを、大人がきちんと伝えていかないといけない。

和田 すばらしい。私も行きたくなりました。

井手 大人にこそ来てほしいです。大人こそが、語るべき言葉を持たないといけないんだから。僕は子どもたちにこう言いますよ。もし、将来貧乏だったとしても、ちゃんと生きていける世の中を作っておくからな、お前ら心配すんなよ、って。そんな心配はいいから、自分の生き方を自分で選べるよう、ちゃんと学べよ、色んな価値観に出会っておけよ、って。一人ひとりが語るべき言葉を持つ。所得の最大化じゃなくて、満足を最大化する。自己満足の社会。いいですね。世の中の評価の言いなりになって、金もうけを目指すのではなくて、自分の思い、自分の価値を大事にして、みんなが自分だけの満足を手に入れられる社会。誰もが、今日よりもすばらしい明日を夢見ることのできる社会を作りましょうよ。人間には必ずできますから。意志さえあれば。

和田 そんな社会に向かっていきたいです。井手さん、今回は本当にありがとうございました。

井手 ありがとうございました。テンション上がってしゃべり過ぎたので、まだだいぶ明るいけれど……ビール飲みます(笑)

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◆まとめ

全5回にわたってお送りした和田さんと井手さんの対談、いかがでしたか?
しぼんでいく経済、少子高齢化など、日本が抱える長年の課題に、最近では新型コロナウイルスの流行や、隣国が始めた戦争への不安も加わり、これからのことを考えると、頭が痛くなりますよね……。
だからこそ、大事なのは、「自分の頭の中にあるモヤモヤを見つめること」なのかもしれません。一度立ち止まって「私はなんでこんなに不安なんだろう?」と考えてみる。そして、その理由を一つずつ並べてみる。理由のすべてを一掃するのは難しくても、小さなアクションで、モヤモヤを少しずつ軽くすることは、できるのではないでしょうか。
和田さんにとってそのアクションは、「日本の現状を知ること」でした。井手さんは小さな学校を始めることで、長年の夢を形にしようとしています。お二人を見ていると、人間一人が持つ力は、決して小さくない。そう思えます。

最後に、『暮しの手帖』創刊者の一人である花森安治が、1970年に発表した文章をご紹介します。題名は、「見よぼくら一戔五厘の旗」。一戔五厘とは、ハガキ1通の郵便料金。ハガキ1枚で市民のもとに招集令状が届いたことに由来しています。
すべての命が等しく重く、何よりも大事に扱われる世の中を強く願って。
一部を抜粋して掲載いたします(編集部)。

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見よぼくら一戔五厘の旗
(前略)
今度こそ ぼくらは言う
困まることを 困まるとはっきり言う
葉書だ 七円だ
ぼくらの代りは 一戔五厘のハガキで
来るのだそうだ
よろしい 一銭五厘が今は七円だ
七円のハガキに 困まることをはっきり
書いて出す 何通でも じぶんの言葉で
はっきり書く
お仕着せの言葉を 口うつしにくり返し
て ゾロゾロ歩くのは もうけっこう
ぼくらは 下手でも まずい字でも
じぶんの言葉で 困まります やめて下
さい とはっきり書く
七円のハガキに 何通でも書く
ぽくらは ぼくらの旗を立てる
ぼくらの旗は 借りてきた旗ではない
ぼくらの旗のいろは
赤ではない 黒ではない もちろん
白ではない 黄でも緑でも青でもない
ぼくらの旗は こじき旗だ
ぼろ布端布をつなぎ合せた 暮しの旗だ
ぼくらは 家ごとに その旗を 物干し
台や屋根に立てる
見よ
世界ではじめての ぼくら庶民の旗だ
ぼくら こんどは後へひかない
(1970年10月・『暮しの手帖』2世紀 8号掲載。文字や改行など掲載時ママ)
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*対談収録日:2022年1月末
(その後の社会情勢を鑑みて追記している箇所があります)

*別冊『お金の手帖Q&A』はこちらからご購入いただけます。
暮しの手帖社オンラインストア

写真・上山知代子/イラスト・killdisco/協力・飯田英理/構成・編集部


暮しの手帖社 今日の編集部