リアル「とと姉ちゃん」の家物語

2020年09月29日

しず子さん_DSC7534

リアル「とと姉ちゃん」の家物語
(8号「しずこさんの家を訪ねて」)

こんにちは、編集長の北川です。
あれは2016年ですから、もう4年前のことになりますが、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で、弊社創業者の大橋鎭子がヒロインのモチーフとなったことはご存じでしょうか?
長らく社長を務めた大橋のことを、社員の誰もが「しずこさん」と呼んでいました。いまも存命なら、ちょうど100歳。亡くなったのは93歳のときですが、92歳までは元気に出社していて、私も1年半ばかりは日々接していました。
よく覚えているのは、その手の美しさ。白く、指はすらりとしていて、きれいに切りそろえた爪には淡い色のマニュキュアが塗られていたものです。
ふだんは顧問室にいるのですが、毎朝10時くらいになると編集部に顔を出し、「ねえ、何か面白いことはない?」と、私たちに声をかけます。まあ要するに、「何か面白い企画を考えなさいよ」って、はっぱをかけているわけですね。
『暮しの手帖』の創刊時、鎭子さんはまだ28歳。創刊号は在庫を3千部も抱えてしまい、見本誌をリュックに詰めて、地方の書店をめぐって営業に歩いた。「みんながアッと思うような記事を載せなくては」と編集長の花森安治に言われたら、元皇族の随筆の原稿を粘りの一手でいただいてきた……等々、鎭子さんにまつわる伝説的なエピソードはいくつもあるのですが、そんな人がふつうに出社していることに、はじめはちょっと驚いたものです。

『とと姉ちゃん』が放映された時期に『しずこさん』という別冊をつくり、その取材で初めて鎭子さんの住まいを訪ねました。門扉を入ると、ぶどう棚のある芝生の庭が広がり、その向こうに、漆喰壁に瓦屋根の和風家屋がどっしりと佇んでいます。
生涯独身だった鎭子さんがともに暮らしたのは、同じく独身で『暮しの手帖』を支えた末妹の芳子さん、母の久子さん、三姉妹のなかで唯一結婚した長妹の晴子さんとその家族、60年以上も務めた家政婦さん。総勢8人です。約20畳の広さのリビング・ダイングには、伸長式の大きな食卓やウィンザーチェア、ゆったりとしたソファが置かれ、大家族がここで笑いさざめきながら過ごした情景が浮かんでくるようでした。
「暮らしの基礎は家である」とは、鎭子さんが遺した言葉。彼女はこの家づくりに、いったいどんな夢や希望を抱いていたのだろう? どんな工夫を凝らし、それは『暮しの手帖』の誌面づくりとどのように結びついていたのだろう? 今回の特集では、建築家の中村好文さん、施工に携わった元棟梁の阿部好男さんに取材にご協力いただき、以前から知りたかった「鎭子さんの家物語」を掘り下げました。
なんと言っても見どころは、約8畳の板張りのキッチン。60年以上前につくられたとは思えない工夫の数々、ぜひご覧ください。
(担当:北川)


暮しの手帖社 今日の編集部