◎ブラームスの4番がしみる。
──編集長より、最新号発売のご挨拶
こんにちは。
「啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々」(水原秋桜子)
そんな季節。
東京にも木枯らしが吹き、私たちも「いそがねば」と焦る。何をいそぐのかはわからないけど。
そんな季節です。
滋賀県の実家で一人暮らす老母に電話したら、「なんか気持ちがすーすーして、さびしいねん」と呟きました。「晩秋やからかなあ……いくつになってもあかんなあ……」「柿の木の上のほうの柿を見てもせつなくなる……」。母はいま90歳。おかげさまでとても元気ですが、心は弱る、そんな季節。
私も──そうは見えないかもしれませんが──とても感傷的な気性で我ながら弱っちい。夜はとくに「あかん」。いまもよせばいいのに、ブラームスを聴いたりしています。あーしみる。
中学、高校の頃から秋冬はそうだったなー。自分の部屋で、はかどらない勉強セットを目の前に広げ、しかし心はトランジスタラジオに。
滋賀の田舎から、遠い遠い東京の深夜放送、ガーガーザーザーという雑音の向こうに聞こえてくる音楽に耳を澄ませていました。「レモンちゃーん!」(落合恵子さんのことね)、「チンペイさーん!」(谷村新司さんのこと)なんてね。
この季節にかかるのはバラードが多い。
バッドフィンガー「明日の風」、なつかしいね。ビョルンとベニー「木枯しの少女」、ヴィグラス&オズボーン「秋はひとりぼっち」、アルバート・ハモンド「落葉のコンチェルト」、ミッシェル・ポルナレフ「愛の休日」……知っていますか?(可能な人はぜひ検索して、聴いてみてくださいね)。読み上げられるポップスベストテンを必死でメモしたものでした。あのノートはまだ実家にあるかなあ?
いまでも、ずっと聴いています(古い曲もすぐに聴ける便利な時代になったね)。
もちろんヒットソングだけではなく、映画のサントラも、ジャズも、クラシックも、どれもこれも、しみるー。
冬です、冬だ。
さあ、『暮しの手帖』もWINTER=第3号です。
今号の表紙画は、イラストレーター秋山花さんの「The color of the birds 鳥はいろんな色」。まだ2歳だった息子さんが「鳥はいろんな色なんだよ」と言ったその言葉、彼の塗った鳥の絵に「はっとした」。そのときの「気付きを記録した」作品だそうです。ぜひ書店で、花さんの鮮やかな色づかいをお確かめください。
いつものように、これからしばらくそれぞれの担当者が特集のご案内を致します。おつきあいのほど、どうぞよろしくお願いします。
それともうひとつ。私はこの号をもって編集長を退き、京都・滋賀の家族の元に帰ります。2016年の第4世紀80号から第5世紀3号までちょうど24冊、4年分を務めさせていただきました。振り返ると……とても楽しかった!
ご挨拶は本号の「編集者の手帖」にしたためております。よろしかったら、お目通しください。
ありがとうございました。
あー、ブラームスの4番がしみる。
編集長・澤田康彦